嶋田マート裏にて


「嶋田マート…懐かしい…」


 可愛い豚が輪切りにされたなんともシュールなイラストが看板の嶋田マート。
昔友達と学校帰りにお菓子を買ったりと何度か言った覚えがあるなぁ……っと、いかんいかん。今は思い出に浸っている場合じゃなかった。
今日は嶋田誠さんにお詫びをしに来たんだから!ちゃんと近くのケーキ屋でケーキ詰め合わせも買ってきたしあとは嶋田誠さんを見つけるだけ!


「えーっと、嶋田誠さん嶋田誠さんはっと…確かセンター分けで眼鏡の…」

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」

「うわっ!!」

「おっ、苗字さんだったんだ。買い物?」

「し、嶋田誠さん!?」

「えっ?嶋田誠だけど?」

「あ、ちがっ…えーっと、実はこの度は貴方に謝りたくて来たわけでして…」

「ああ、この間のか。気にしなくていいのに」

「あんなに迷惑かけて謝らずにはいきません!!」

「ははは、そっか。ここじゃなんだし俺今から休憩入るから店の裏まで来てもらえるかな?」

「は、はい!!」


ニカッと笑った嶋田誠さんの背後に後光を感じたよ…。ほんとに菩薩か何かかこの人は…。
彼に言われたとおりにお店の裏に行くと「こっちこっち」と手招きされお店の休憩室らしき場所に上がらせてもらった。


「今誰もいないし寛いでくれて良いよ」

「お、お邪魔します…。では改めまして…先日は大変ご迷惑をお掛けし申し訳ありませんでした。一言お詫びを言いたくてお仕事中に押しかけてしまい申し訳ないです。これ、近くで買ったものですが良かったら食べてください」

「わ、ケーキ!こんなに沢山!」

「お口に合うものが分からず片っ端から買ってきました。ごめんなさい」

「こんなに気ぃ使わなくて良かったのに…。っていうか謝りすぎだって。そんなにたいした事してないよ?俺」

「いやいやいや…膝を貸してもらった上に車に乗せてもらったのに家までの道案内もせず眠っちゃって…」

「ああ、あん時は繋心を叩き起こして家教えてもらったし大丈夫だったよ」

「お手間を取らせてすみませんでした…」

「だからそんな謝んなくても……そうだ、苗字さんさえ良かったらこのケーキ一緒に食べない?一人で食べても味気ないし一緒に食べてくれればそれでチャラってことで」

「そんなのでチャラにはなりませんって…嶋田さんって優しい方ですねぇ…」

「良いの良いの。ははは、てか苗字さんやっぱり俺の事覚えてないか」

「へ?」

「俺一応名前さんとは同じ高校だったんだよ。同じクラスになったことないし覚えてないかもだけど。烏養と同じバレー部だったよ」

「へっ!?えええっ!?うええええええええ!!??」

「だからそんな畏まった敬語とか抜きでいいからね」


ちょ、ちょっと待って…同じ高校…!?今同じ高校って言った!?同じクラスになったことないって事は同級生!?うっそぉおおおお!!烏養の奴一言もそんな事言ってなったよ!!??


「ははは、百面相になってる」

「ハッ!!あの、えーっと…ごめんなさい、覚えてなくて…」

「直接喋ったことも無いし俺が一方的に知ってるだけだったから良いって」

「し、嶋田君って良い人だね…!!なんでこんな良い人を知らなかったんだ高校時代の私は…!!」

「そんな良い人でもないって。ケーキどれにする?色々あるから迷うな〜」

「あ、ここのお店はショートケーキが美味しいよ。昔と味変わってなければだけど」

「おっ、んじゃ苗字さんのお勧めにしてみるか。ケーキなんて久しぶりだな〜。男一人身だとケーキなんて買いに行きづらいしね」

「嶋田君はまだお嫁さん居ないの?」

「くっ…見てのとおりモテませんよ俺は…」

「そうなの!?私からしてみれば菩薩レベルだけどなぁ嶋田君。神だよ神」

「どういう位置付けか分からんけど悪くはないなら良いか。苗字さんは里帰り中?繋心から都会に嫁に行ったって聞いてたけど」

「うーん…それが話すと長くなるんだけど…恥ずかしい事ながら色々あって離婚して出戻ってきました。バツイチってやつだね」

「ば、ついち…!?」

「おおう…その反応は些か傷つくよ嶋田君…」

「あ、いや、ごめん!!そういうつもりじゃなくて!!なんていうかビックリしたから…」

「ははは、嘘嘘。傷ついてなんか無いから気にしないで。若くして結婚したのは良いけどほんと色々あってさー……急いで結婚してもろくなことが無いって分かったわ…」

「なんか大変だったみたいだな…」

「ごめん、こんな暗い話聞かせちゃって」

「いや、苗字さんが構わないなら全然。むしろいつでも聞く」


菩薩……どこまで優しい人なんだ、嶋田君…!!ほんとに烏養の友達なのかと疑ってしまうほどの優しさだ。
なんでこんな素晴しい人を覚えてなかったんだよ自分は!!馬鹿野郎!!

自分で自分を蔑みなが嶋田君の隣でケーキをつつく。久しぶりに食べたあのお店のケーキは昔と変わらず美味しいし、嶋田君も美味しそうに食べてくれた。
こんな菩薩のような人がやってるスーパーだしこれからここで買い物するようにしよう。
出戻り先で予想外に素晴しい出会いがあったし地元に帰ってきてよかったな〜。
これでしごとさきさえ見つかればあとは言う事も無いんだけど…。


「そういや苗字さんは今仕事とかどうしてんだ?」

「ちゃんとした就職先が見つかるまで時間がかかりそうだからどこかでバイトでもしようかなーって思ってるとこなんだよ。どこか良いとこ知らない?」

「ナイスタイミング!俺んとこで今パートさん募集してんだよ。苗字さんさえ良ければうちで働かない?」

「嶋田マートで!?良いの!?」

「こっちも願ったり敵ったりだ。暇だったら明日にでも来てくれよ」

「い、行きます行きます!!ありがとう嶋田君!!」

「いや〜こっちこそ。苗字さんと働くとかなんかちょっと照れ臭いけど」

「なら私の事は空気だ思ってくれて良いからね!!」

「ははは、そりゃ無理な話だ。じゃあ明日は動きやすい服装で…えーっと時間はっと…」


まさかまさかの展開でお詫びに行った先で働き口を見つけてしまうとは…!!
これはほんとに嶋田くん様様だ。一生頭が上がらないなぁ。
少しでも恩が返せるようこの出戻り女苗字名前、一生懸命働かせていただきます!!



2014.7.8
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