バレー部にて


今まで一度も経験した事が無かった二日酔いというやつは想像を絶するものだった。
頭痛は酷いし吐き気は納まらないし歩くのも辛い…。
お蔭で丸一日を布団の上で過ごし引越しの荷物を解くはずだった本日の予定が狂ってしまった。
だがそれよりも、だ。あの居酒屋で飲みすぎた夜見ず知らずの男性に介抱ならぬ介護をさせて送って貰ったにもかかわらず私は道案内もせず車の中で爆睡しちゃったんだよ!!
謝っても謝りきれない!!
とにかく一刻も早く烏養にあの男性の名前と住所を聞いて菓子折り持って謝りに行かないと!!


「繋心んんんんん!!」

「アラ名前ちゃん。久しぶりねぇ!」

「あ、おばさんの久しぶり〜!」

「少し見ない間に綺麗になったわねぇ!お母さんから聞いたわよ、旦那さんに酷い目に合わされたんですってねぇ〜。もう大丈夫なの?」

「ええまぁ。弁護士のお蔭で難なく離婚して慰謝料もたんまりもらえたんで。それより繋心に用があるんだけどどこに居るの?畑?」

「あの子なら今烏野高校よ」

「烏野!?なんで!?」

「今あの子バレー部のコーチしてるのよ」

「えええ!?そうだったの!?この間会ったときちっともそんな事言ってなかった!!」

「照れ臭いんじゃない?」

「ほぉおお…じゃあ烏野の方に行ってみようかな。あ、おばさんアイスちょうだい。差し入れに持って行くよ」

「はーいまいどあり!」


おばさんにクーラーボックスを借りてアイスをたんまり詰め込み急ぎ足で烏野に向かう。
高校時代飽きるほど通いなれた道だけど十年近くもたつと少し新鮮に感じるなぁ。


「うわ〜懐かしいな烏野高校…!!えーっと、第二体育館はあっちかな」


休日という事も会ってか校内には部活をしている生徒が沢山居る。
不審者扱いされても敵わんので一応事務所の方に顔を出すとOGという事もあってか難なく許可が降りた。
田舎の学校のセキュリティなんてこんなもんだよね…。


「お!?お前苗字じゃないか!!」

「あ、先生!お久しぶりです!まだこの学校に居たんですか!?」

「おう!まだまだ現役だからな!もしかして烏養に用か?」

「そんなとこッス。バレー部ってどこで練習やってますか?」

「第二体育館だが…おお、ちょうど顧問が戻ってるな。おーい武田先生!」

「は、はい!なんでしょう!」

「こいつここのOGで烏養の幼馴染なんだ。用があるっつーから案内してやってくれんか?」

「烏養コーチの…!分かりました!僕バレー部の顧問をしています、武田と申します」

「どうもご丁寧に…苗字名前です」

「ではご案内しますのでこちらへどうぞ」

「お願いします。じゃあ先生、また」

「おう!いつでも遊びに来いよ!」

「はーい!」


昔お世話になった先生に大きく手を振りバレー部の顧問だという武田先生の後ろを歩く。
しかしこんな若い先生が顧問とは…。私の頃は烏養の爺ちゃんの爺ちゃんだったからなぁ。
あんまり詳しくないけど名監督だかなんとかって呼ばれてた気がする。私も小さい頃はよく繋心と一緒にバレーを教えてもらってたなぁ…。


「着きました、ここが第二体育館です」

「ありがとうございます。うわ、蒸し暑い…!!」

「蒸し風呂状態ですからね…もう少ししたら休憩になるのでここで待ってもらってもいいですか?」

「あ、すみませんわざわざ!お構いなく!」


どこからかパイプ椅子を持ってきてくれた武田先生に頭を下げる。
うーん、この先生丁寧だし優しいし良い人だなぁ…烏養に苛められてないと良いけど…。


「15分休憩ー!!」


ホイッスルの音と共に休憩時間となった。
武田先生が烏養の元に走り何かを話していると「あ!お前!」と驚いた顔で烏養がこっちを見る。
つられて驚いた表情で生徒さん達もこっちを見るもんだから集中を浴びてしまいなんとも恥ずかしい…。


「ったくお前なんで来たんだよ」

「よっ!さまになってんじゃんコーチィ!!」

「っせ。なんか用か?」

「うんまぁ。あ、それより先にこれ。アイス買ってきたから生徒さん達にどうぞ」

「おー、気が利くな。お前らー!差し入れ取りにこーい!!」

「差し入れ!?やったーー!!」

「おお、元気だな高校生は」


一番に駆け寄ってきたオレンジの髪の少年にどれでも好きなのどうぞ、とクーラーボックスを開けるとまたまた元気な声で「あざっす!!」と勢い良く頭を下げた。うんうん、元気で良いなぁ。
それに続いてわらわらと集ってきた生徒達が口々にお礼を言いながらアイスを取っていく。
しかし流石はバレー部…背の高い子が多いこと…。
あと余ったアイスをマネージャーの子にもあげようと肩を叩いたらすんごい美少女だった。
遠慮がちな笑顔をお礼を言う姿はまるで女神の如く…。いかん、これ以上は犯罪になる。


「はぁー…すごいなバレー部は。私達ん時もこんなだったの?」

「さぁな。それより用ってなんだったんだ?」

「ああ、そうだった。この間酔い潰れた時車で送ってくれたあの方のお名前と住んでる場所を教えていただきたくやって参りました」

「嶋田の事か?なんだよお前、あいつの事知らないで介護されてたのか」

「悪かったな介護されてて…。で、名前と住んでる場所は?」

「嶋田誠。嶋田マートってあんだろ?あそこの息子だよ。そこ行きゃ会えると思うぜ」

「嶋田マート…あのスーパーか。分かった、行ってみる。あんがとね」

「おー。また差し入れよろしくな」

「へいへい。頑張ってねー」


…嶋田誠さんかぁ。どこかで聞いた事があるような無いような…。
突然押しかけるのも申し訳ないけど就業時間は遅いだろうしかえって迷惑になるかな。
ちょうど今は昼過ぎでこの時間のスーパーは夕方に比べれば差ほど人も多くないだろう。
よし、行くか。

ここまで案内してくれた武田先生に挨拶をして体育館を出ようとすると、部員達が一斉に「アイスご馳走様でした!!」と頭を下げた。
頑張ってね、と手を振るとあの元気なオレンジの子を筆頭に坊主頭の子やツンツン頭の子が「頑張りまっす!!」と大きく手を振ってくれた。
皆良い子達だなぁ、バレー部。



2014.7.8
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