高1初冬





「しつこいってば!」

「いいじゃん〜デートだけでいいからさ!」

「そのデートが無理だって言ってんの!」

「なんで?」

「したくないからだって」

「いいじゃんデートくらい」

「ええ〜なにこの無限ループ…」

「…名前」

「あ、緒方さん!」


付き纏うクラスメイトをなんとかあしらおうと試行錯誤していると近くを見慣れた真っ赤なRX-7が通りかかった。
中から出てきた白スーツ姿に思わず駆け寄ると肩に手を回され引き寄せられる。


「名前、その少年は?」

「えーっと…まぁクラスメイト的な…」

「へえ…」

「えっ、その人苗字のおじさんか何か?」

「違う違う。幼馴染の〜…説明するとややこしいから省略」

「車で家まで送ってやろう。雪も降ってきたしな」

「やった!助かりますー!」

「あ…」

「悪いがこの車は二人乗りでな。それじゃあな、クラスメイトくん」

「じゃあねー」

「……何なんだあのオッサン…」


急ぎ足で助手席に乗り込めば外から緒方さんが扉を閉めてくれた。
柔らかいシートに腰を下ろしてホッと溜息をつく。


「助かった〜…緒方さんが通りかかってくれてよかったよ…」

「えらく付き纏われてたみたいだな。あいつに好かれてるのか?」

「あいつ誰にでもデートしよって声かけるような奴なんだよ。今日は特別しつこいし寒いし雪は降ってくるしで散々だったな〜。救世主だよ緒方さん」

「そりゃ良かった」


緒方さんがハンドル切る片手で暖房を強くすれば暖かい風が届いてきた。
雪も降ってきたし季節はもうすっかり冬だ。
人があふれる街並みはイルミネーションが施されていてクリスマス一色と言ったところだ。


「もうすぐクリスマスだね。緒方さんは家でケーキとか食べるの?」

「一人身の独身男がクリスマスに一人でケーキなんて食べてたら侘しいだろう」

「あはは、確かに想像したら切なくなるね!」

「こいつ…」

「ギャー髪が乱れる!って言うか運転しながら危ないでしょうがー!!」

「俺の運転は天下一だから大丈夫さ」

「すごい自信過剰だ……ねえ緒方さん、緒方さんって彼女とか居ないの?」

「急にどうした?」

「だっていつも囲碁ばっかやってるし魚にしか愛情注いでないのかなって」

「ははは、確かに魚には愛情をかけてるが一応彼女も居るさ」

「へー…彼女居たんだ…」

「まあな」


そりゃ緒方さんだったもういい歳だもんね。35歳って言えば結婚して子供もできてる人も多いし…。
でも緒方さんが結婚かあ……なんだろう…もやもやする…


「どうした?」

「んー…分かんない」

「悩み事か?おじさんでもよければ聞いてやるぞ」

「悩み事って言うか…緒方さんってさ、結婚とか考えてる…?」

「結婚、か…どうして?」

「…緒方さんが結婚するのなんかやだ…」

「ほお……なんで嫌なんだ?」

「なんでって…分かんないけど。寂しいっていうのかな…」

「…じゃあお前はどうしたいんだ?」

「わ、分かんないってば!緒方さんってお兄さんみたいな存在だし知らない女の人のものになるのは寂しいっていうか…そんな感じ…」

「そんな感じ、か」


低くそう呟いた緒方さんは胸ポケットから煙草を取り出し少し間を置いてからまた胸ポケットへと閉まった。
別に吸ってもいいのに。
煙草の煙嫌じゃないから大丈夫って昔からそう何度言っても緒方さんは私の前で煙草を吸う事はない。
それは私を子供だと思ってるから…。

彼女の前では吸うのかな、煙草……



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