中2の夏
「こんにちは」
「いらっしゃい緒方さん」
「今日も暑いな。水羊羹買ってきたよ」
「わ、ありがとうございます」
「そこの羊羹名前ちゃんが好きだったろ。今日は来てないのか?」
「来てますよ。一緒に夏休みの宿題してたんですけど名前ちゃん寝ちゃって…」
「名前ちゃんらしいな」
「あ、お父さんは今少し用があって出かけていて…三十分ほどで戻ってくると思います」
「分かった。それまで休ませてもらうよ」
「はい。お茶持ってきますね」
パタパタと台所へと向かうアキラを横目に通い慣れた廊下を進む。
普段は格式のある凛としたこの屋敷も真夏と言う事もあって室内でも暑さを感じる。
先生はあまりクーラーを好まれないからかこの家にはクーラーのある部屋が少ないせいもあるだろう。
「お、居た居た」
居間に差し掛かると縁側でごろんと横になっている少女の姿が見える。
幼いころからここに遊びに来ていた名前はそれはもう幼く無邪気で愛らしい子供だった。
それが今や中学二年生か…子供の成長の速さを感じるなんて俺もオッサンになったな。
弱い風を送っている扇風機と丁寧にタオルケットが掛けられて幸せそうに眠る名前の傍に腰を下ろした。
寝姿はやっぱり幼いな。こうしてると小さい頃を思い出してか思わず口が緩むのを感じる。
「んー…」
「っと…」
寝返りを打ち仰向けからこちらに向かって横になった名前の体からタオルケットがずり落ちる。
その拍子に白いワンピースの裾からやや日に焼けた脚が露わになった。
よく見ると胸元からも白い谷間が…体だけはもういっちょ前か。
娘や妹の様に可愛がっていた少女が女になって行く様に胸がざわつくのを感じる。
いつかこの清らかな体に汚い手で触れる男が来るのかと思うと無性に腹が立つ。名前だってもう年頃だ、恋愛の一つや二つ重ねていつかは好きな男と…いや、遠くない未来にそうなるのだろう。
そんなまだ見ぬ男に対して沸々と沸く殺意に自分自身で不思議な違和感のようなものを感じ始めた。
確かに名前を特別可愛がっている自覚はあるが彼女の幸せを思うならそれも致し方ない事だろうが。
でもこんなにも…誰の手にも触れさせたくないと思うのは……――
「緒方さん、お茶持ってきました」
「ああ、すまない」
「わっ!ったく名前ちゃんは…女の子なのに脚を出してちゃいけないよ」
「ははは、相変わらず寝相が悪いな」
「さっきなんて大の字になってましたからね。もう少し女の子らしくなってくれればいいんですけど」
「…アキラは名前ちゃんの事をどう思ってる?」
「どう、とは…」
「幼馴染とは言えお互いお年頃の男女だろう。好きなんじゃないのか?名前の事」
「そ、そんな!名前ちゃんとは友達でそんなこと考えた事も無いですよ!」
「ははは。でも名前は可愛いしその内男が放っておかなくなる。それでも良いのか?」
「それは…もちろんいい加減な相手なら絶対に許しませんよ。大事な友達ですから…でも…」
「でも?」
「名前ちゃんが選んだ相手なら…許します。幸せになってほしいから」
「へえ…たとえばどんな奴?」
「うーん…緒方さん…とか葦原さんかな。僕が尊敬できるような人じゃないと」
おいおい、葦原となら俺の方が良いに決まってるだろ。