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「ふあっ…」

「眠そうだねー苗字さん」

「あ…おはよう及川君…今日五時起きでね…普段こんな時間に起きる事なんてないから眠くて眠くて…」

「お疲れ様。空き時間とかあるなら寝てて良いからね。ただしちゃんと女子部屋寝る事」

「はぁーい…」


早朝に起きて作った大量の朝食は三十分とたたないうちに部員達によって余すことなく平らげられた。
男子高校生の恐るべき胃袋に感心してしまうよ…。ご飯だって特盛にしてるのにおかわりする子だって居るし。
及川君もおかわりしてたしすごいなぁ…私があれだけの量を食べたら間違いなく太るって言うのに及川君の体はがっしりしてるし。運動量の違いってすごい。


「そうだ、及川君。今日明日と明後日と練習試合に出掛けるから昼食は要らないんだよね?」

「うん。マネージャーも皆一緒に来るから出払っちゃうけど苗字さんは合宿所でのんびりしてていいからね」

「いやぁ、それも悪いからできれば一緒に行って何かお手伝いできればなぁと思ってるんだけど…。でもできれば一日だけお昼辺りに自由行動させてもらっても大丈夫かなぁと思って…」

「自由行動って…どこか行きたい場所でもあんの?」

「うん。従兄弟がこっちに居るから会えないかなと思って。あ、でもお盆にもまた東京に里帰りする予定だし無理なら良いからね!」

「ぜーんぜん構わないよ。慣れてないのに毎日動いてたんじゃ体ももたないだろうしね。行ってきなよ」

「あ、ありがとう!」

「でも里帰りって…もしかして苗字さんってこっちに住んでたことあんの?」

「うん。幼稚園くらいまでは東京の父方の実家で暮らしてたんだよ。お母さんも東京の人だから親戚は皆こっちに居るんだよね」

「そうだったんだ。じゃあ心置きなく楽しんできなよ。監督たちには俺から連絡しておくからね」

「うん、ありがとう。勝手してごめんね」

「気にしないで良いってっ!」

「うわっ!」


及川君にぐしゃぐしゃと頭を撫でられ髪がボサボサになる。
折角ちゃんと寝癖直したのに…!!不満を目で訴えると「撫でやすい位置に頭があるんだからしょうがないじゃん」と悪ガキのように笑われた。
及川君もこんな顔もするんだなぁ…。ニヒルな笑みがテンプレの従兄弟が頭をよぎってしまった。
あいつにもあとで連絡しておかないとね。

その後は慣れないマネージャーの仕事のお手伝いもなんとか根性で乗り切りつつ大量の食事作りにも少しずつ慣れ作るペースも速くなった。
鉄郎に連絡をしたところどうやら奴も今は合宿中らしく、昼の休憩には出られるから一緒に食事でもしようという事になった。



「おー名前〜」

「あ、てつろー!おーい!」

「大声出さなくても分かるっての〜。久しぶりだな」

「だね。あ、研磨君も一緒に来てくれたの?」

「…うん。久しぶりに名前に会いたかったし…」

「ほんと?嬉しいなぁー」

「あとさ、おまけに何人かついてきちゃったんだけど構わねえか?」

「おまけ…?」


待ち合わせ場所にジャージ姿でやって来た鉄郎と研磨君の背後を覗き込む。
えーっと、皆ジャージがバラバラだけどどちら様…?


「ヘイヘーイ!これが黒尾の従兄弟かよ!!」

「これって失礼ですよ木兎さん。失礼をしてすみません…」

「あ、いえ…お気になさらず…」

「……僕帰っても良いですか」

「つれねぇな〜ツッキー。今こいつらと一緒に合同合宿やってんだわ」

「合同合宿…研磨君も?」

「…仕方なく…」

「まぁとりあえずファミレスでも入ろうぜー」

「俺肉食いてぇ〜!従兄弟ちゃんは肉好きか?」

「えっ…す、好きかな…」

「木兎さん、初対面の女性に馴れ馴れしくしすぎですよ」

「はぁ…」


なんだか背の高い男の子達に囲まれて居心地が悪いぞ…。しかも黒いジャージの眼鏡の男の子は嫌がってるみたいだしなんだかなぁ…。
無理矢理鉄郎と研磨君の間に挟まるようにして並べば「お?久しぶりに会うから甘えてんの?」と鉄郎に肩を抱かれたので背中を殴っておいた。




「へぇー、お前が手伝いしてるのってバレー部だったのかよ」

「うん。あんまり詳しくないんだけど見るのは好きだからさ。スパイクって言うのかな?ズドンっかっこよくて」

「名前バレー好きなのかよ!!じゃあ俺のスパイク見せてやるから遊びに来いよ!!」

「あちらさんも合宿中って言ってるじゃないですか……」

「そうですよ木兎さん。少しは大人しくしててくださいよ」

「こいつはバレーは強いんだけどアホだから」

「黒尾に言われたくないんだけど!?」

「え……鉄郎ってバレー部だったの!!?」

「今更かよ!?っていうか知らなかったのかよ!?」

「ず、ずっとサッカー部だと思ってたんだけど!?ええーー!バレー部だったんだ!!ハッそういえば鉄郎の部屋にバレーボールとかあったね!!納得!!」

「……この人天然なんですか?」

「んにゃ、ただのアホなんだわ」

「うっわ鉄郎にだけは言われたくなった」

「苗字さんはどこの学校に通ってるんですか?」

「宮城の学校だよー。あんまり詳しくは無いけど強いみたいで」

「宮城つったらツッキーと同じじゃんか!!」

「え…ツッキー、君?も宮城の学校に通ってるの?」

「ツッキーはやめてくれませんかね…まぁ一応…」

「烏野ってとこなんだけど知ってっか?」

「烏野!?知ってる知ってる!友達も何人か通ってるもん!!なんかすごい偶然だね〜!地元の子に東京で出会う事になるなんて思ってもみなかったなぁ!」

「なんかすげえじゃん。んじゃツッキーも名前の学校のこと知ってんじゃねえ?」

「相当強い所でもなければ分かりませんよ。少なくとも白鳥沢レベルじゃないと」

「白鳥沢…あそこは全国区ですもんね」

「同じ県内に強豪が多いと苦労するな」

「え…白鳥沢ってそんなに強いの?幼馴染がそこのバレー部なんだけど」

「マジかよ!?」

「すっげぇ!!ポジションは!?」

「わ、分かんない…私の前ではあんまりバレーの話しないし試合も小さい頃に見てたくらいだから…。たぶん幼馴染はレギュラーじゃないんじゃないかな」

「んで、名前はなんて学校に通ってんの?」

「青葉城西高校って所なんだけど、分かるかなぁツッキー君」

「え………」

「お?どうしたツッキー」

「…いえ…なにも…」

「何もって顔じゃねえけど!?」

「……お節介かもしれないですけど、苗字さんはどうしてバレー部の手伝いをする気になったんですか…?」

「え…ええっと…部長とちょっと仲が良いというかなんと言うか……困ってるみたいだったから私にできる事があったらなぁと思ってね」

「……部長ねえ…」

「お、おいツッキー?なんなのその顔?」

「部長になんかあんのか!?」

「いえ、なんでもないですよ」

「なんだよその輝かしい笑顔は!!」

「ヘイヘーイ!!詳しい事教えろよツッキー!!」

「二人とも座って食べてください。迷惑です」

「……食事に埃が経つんだけど…」

「「すみませんでした…」」


…なんだかキャラが濃い人達だなぁ…。
だけどまさかツッキー君が烏野のバレー部の子だったとは。それに白鳥沢がそんなに強い高校だったなんてなぁ…そういえば試合だかなんだかで東京に行く事が多いって若利君言ってたっけ。
すごいんだなぁ若利君の学校…。

それからなんだかんだと男子高校生達のにぎやかのトークに混ざりつつ食事を終え練習に戻る皆を見送り私も合宿所へ戻った。
鞄に放置していた携帯を見ると及川君からのラインが大量に来ていて何事かと思えば今どこなのかとか迷子になってないかとか変な男に絡まれてないかとか東京は怖い所だよだのと私を心配する言葉がずらりと並べてあった。
…及川君、休憩時間はもっと有意義に使った方が良いと思うよ…。


2015.2.8



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