誰のものか分かってる? ※
あの一件から、ルードとよく話すようになった。相変わらず割り当ての多い支度に辟易としつつ、ルードに材料を頼んだり、合間に少しだけ話したりして、何とかこなしていた。
俺はあまり喋らないけど、ルードは話上手で、一緒に過ごす時間はなかなか楽しいものだった。
「それで、町で…」
「…ふふ」
「あ」
一拍の後、ルードは優しげに微笑んだ。
「笑った」
「…!」
ふい、と顔をそらす。
ルードのあたたかい眼差しとは裏腹に、俺の心はサァッと冷えていった。
また、気を許してしまってる。
シェスのことで懲りたはずなのに、どうやら俺には学習能力が無いらしい。
「……あ、の…今日は、もう…」
「あっ!申し訳ありません。長話を」
ほっとした。
これ以上仲良くなってしまっては、また正体がバレてしまう。知ってるのは、シェスだけで充分だ。ルードは俺のことをただの巫女だと勘違いしてくれているし、普通の、巫女と騎士の関係でいたい。
「あの…また、何かあったらお呼びください。……アイリール様」
「…、」
ルードは手を軽く上げ、不自然に空を掻いた。そのまま曖昧な表情で手を振る。…そう、それでいい。ルードは、『巫女様』に憧れを抱いてると聞いた。だから、その熱い目線も、『巫女様』に向けられるもの。間違っても『俺』ではない。正直なところ、向けられても、困る。
俺がその視線を向けてほしいのは…
「……」
たった一人だけだから。
**
「ねぇ『巫女様』」
日が暮れるのを窓からぼんやりと眺めていたら、すぐ後ろから声が聞こえた。瞬間体が強ばるが、気にせず外を見続けた。
騎士というのは、みんなこんなに気配を消すのが上手いのか。
「…何」
「…」
話すのは久しぶりだ。まず、会えなかった。
避けてたわけじゃない。むしろシェスが避けてたんじゃないかってくらい、会えなかった。もう、俺に興味がなくなったのかと思った。
だから、声をかけてくれて本当は嬉しい。顔をしっかり見たい。直接触れたい。キスも、その先も…
望まない関係のくせに、こんな風に思ってしまう自分の浅ましさに笑える。
「ふーん、しばらく会ってないから欲求不満かと思ってたけど、そうでもないんだな」
「…?」
イラついたような声に違和感を感じ、そろりとシェスの方に顔を向ける。
「っ?!…っ…ぅあ、ん…っ」
シェスは強引に顎を引き寄せ、唇を奪ってきた。性急に口を割り開かれ、舌が口内を暴れまわる。歯の裏側をつつ、と撫でられ、ぶるりと体を震わせる。
「…ふぁ、っ」
「こうやってあの男もたらしこんだのか?」
「…あの男…?」
「ルード・ブランシェ。アイルはよーく知ってるだろ?」
驚いた。
シェスは俺のことなんてちっとも気にしてないと思ってたのに。ルードと話してたことを把握してるなんて。
「そ、れが…何…」
「あの男は怪しいよ?」
「は…?」
「真面目で優しい仮面の裏には、毒蛇が潜んでいるかもしれない」
ちろ、と首筋を舐められ、体が跳ねた。
「そ…っ、それはシェスの方だろ!」
「ふーん、俺?」
「ルードはそんな人じゃない」
「……へぇ。あいつが『巫女様』拐いの犯人でも?」
「は?何言ってるんだ」
ルードがそんな人なもんか。確かにあまり近付いてこないように警戒はしていたけど、あんな風にきらきらと笑う人が、酷いことをするわけない。
「『巫女様』は世間知らずでいらっしゃる」
くつくつと笑うシェスに、無性に腹が立った。
だから、余計なことまで言ってしまう。
「シェスより、ルードの方が信じられる。…先に会えてたら良かったのに」
そうしたら心の隙間にシェスが入り込むことは、なかったかもしれない。
…。
…でも、シェスのこと、結局好きになってたかな。
「…」
「?…シェス、」
黙ってしまったシェスを見上げる。
すると、鋭利にすがめられた冷たい目に射竦められた。
「な、何だよ…」
「アイル」
「いた…っ、」
ギリッと腕を掴まれる。
「お前は、誰のものだ?」
「…?」
「ダメだろ、他の奴に遊ばせちゃ」
「おしおきだな?」と、耳元で囁かれ、ずくり、と体が疼いた。
**
「ひ、ぅ…やだ、やぁ…っ、あ」
「…」
手首が痛い。腕も。
暗い、怖い。何かにすがりたい。
それよりも、苦しい。きつい。
嫌だ、助けて、怖い。
「嫌じゃないだろ?こんなにトロットロにして…いやらしい身体」
つつ、と体の表面を撫でられ、身震いをする。もどかしい。違う、欲しいのはその刺激じゃない。
「も、これ、はずして…っ」
手首を捩らせる。しかしほどけることはなく、むしろ暴れたことによってもっとキツくなる。
じわ、と涙が溢れてきた。けれどそれは、目を覆う布に吸い込まれてしまう。
「外すわけないだろ。これは罰なんだから」
「…は、はぁ…、やだ…ん、あぁ…」
「ここも、こんなに尖らせてさ」
ねっとりと片方の胸の尖りを舐められ、もう片方はキュ、とつままれる。その甘い痺れにぞくぞくとしたものが這い上がってきて、すり、とシェスの体に足を擦り寄せてしまう。
「…は、触ってほしいのか?」
「…っ、ん、んん…っ」
ぶんぶんと首を縦に振る。なんでもいいから、早く解放してほしい。気持ちよくしてほしい。
ぐちゃぐちゃにして、ほしい。
意識しないと、そんなとんでもないことを口走ってしまいそうになる。
「…淫乱」
息を吹き込むように、囁かれる。
ああ、確かに、今の俺は浅ましくねだる淫乱だろう。でも、好きな人に触れられて、正気を保っていられる人がどれほどいるのか。少なくとも俺はそんなもの、とっくに手放していた。
「…っ、は、あん…、シェス…っ」
「ダメ。さっきから言ってるだろ…アイルが気持ちよくなったら意味がないって」
ぴん、とはりつめた昂りを弾かれる。
そこはぱんぱんになっており、欲を吐き出しくてたまらなかった。塞き止められてるのが苦しくて苦しくて狂いそうだ。
「…ひっ、うぐ…も、や…やぁ…」
「ああ、ここもこんなにひくつかせて」
つぷ、と後孔に指を浅く入れたり出したりを繰り返す。そんな刺激じゃ足りない。自然と動く腰を、シェスが鼻で笑う。
「慣らさなくていいよな」
「え…」
ぐい、と、性急に足を持ち上げられる。
「っ、あああああああっ!!」
そして、太くて熱い杭が体を貫く。
最近はシェスと体を重ねてはいなかったが、その慣れた質量に体が歓喜の声を上げる。
「ふ、簡単に飲み込んだな?俺とヤってない間も、誰かをくわえこんでいたんじゃないの か?」
「あ、っああ、ん、ひぅ、あ…っ、してな、してない…っ」
「どうだか」
ぐっぐっ、と押し込まれ、息がつまる。苦しい。でも、気持ちいい。もっと、してほしい。
「…っ、あ、あっ」
「アイル」
「…ひゃ、あ、ふあっ」
「お前は、俺の玩具だろ」
「ん、んん、…っ」
シェスから紡がれる言葉は、最早理解できない。耳に入っても、音としか認識できない。
「だ、出したいっ、もう、もう…っやぁ」
「じゃあ、ねだれよ」
「…っ、あ、あぁっ、…?なに、な、なん…っ」
「……『ぐちゃぐちゃに掻き回して、中にたくさん出して?』ってさ」
熱に浮かされた俺は、その言葉を馬鹿みたいに繰り返すことしかできなかった。
「…ぐ、ぐちゃ、ぐちゃに…っ、あ、ひぁっ」
「聞こえない」
前立腺を突かれ、上手く言葉が出てこない。
「ぐちゃぐちゃに…っ、かきまわ、んぁっ、なか、なかに、たくさん、だして…っ!」
「ははっ、よくできました」
シェスはそう言うと、さらに早く出し入れを繰り返し、気持ちいいところばかり突いてきた。
頭が真っ白になる。いつの間にか昂りを締め付けていたものはなくなり、シェスが中で自らの欲望を弾けさせるのと同時に、俺もやっと解放された。
そして、意識が沈んでいった。
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