あなたに溺れたい




そこは酷く寒くて、暗いところだった。
俺はそこに独りぼっち。

誰もいない。
でも寂しくなんてない。

この暗闇が俺は好きだ。
此処が俺の居場所。

ねぇ、俺は幸せなんだよ。
聞いてる?
…ねぇ、










…だれか、たすけて











「ラフル!」
「…っ!」

はっと目を覚ますと、そこには心配そうに俺の顔を覗き込む愛しい恋人が居た。
…眠ってたんだ…

いつから?
それよりも、

「…トール、なんで、いるの…?」

起き上がろうとして、ぐらりと身体が傾いた。
咄嗟に伸ばされた力強い腕に抱きとめられる。

「…っと、危ねぇな」
「ごめ…」

そっと額に手があてられる。

「やっぱり熱があんじゃねぇか…ったく、嫌な予感がして来てみたらこれだ」
「…」

なんで。
…なんでこの人は、俺が苦しいときに真っ先に気付いて、そばに寄り添ってくれるんだろう…。ああ、ダメだ、涙の膜が張る。
高熱のせいだけじゃない。トールはいつだって俺の心を揺さぶる。

今回だってそうだ。久しぶりの動けなくなるほどの高熱が出て、一人部屋の中で苦しさに耐えていた。しばらく寝ていれば治るからって、思って。

「あのなぁ、お前玄関先で倒れてたんだからな。あれは寝てるとは言わねぇよ」
「ふふ…そうだね…」

視界が歪む。
くらくらする。
身体中が痛くてだるくて、呼吸をするのも大変だ。
喉だって痛みがすごくて、唾さえ飲み込むことが難しい。


「いいから寝てろ」
「…ん」

優しい手。
大きくてあたたかくて、それでいて安心できる。

「何か食えるもんでも作るか…」
「!やだ、いっちゃ、や…」

置いて行かれそうになって、子どものように駄々をこねる。
独りぼっちになりたくない。
誰かにそばに居てほしい。

トールは苦笑すると、そっと俺の頬を撫でてくれた。

「トールの手…つめたくて気持ちい、ね…」

擦り寄ると額に柔らかいものが触れた。

「ここにいる」
「うん…ありがと…」

そして俺は意識を手離した。









「どうだ?具合は」
「ん…さっきより視界がはっきりしてるかな…でもくらくらする…」
「飯は?」
「食べる…」

トールは俺の頭をひと撫ですると、キッチンへと消えていった。
ベッドの上でぼうっとして前を見つめていると、隣の机にトレイが置かれた。
…おかゆ、かな。

「ほら、あーん」
「…はふ」

トールに差し出された匙を口を開けて招き入れる。
もぐもぐとゆっくり咀嚼する。
…優しい味がする。どうやって作ったんだろう…なんだかとても懐かしくて、ほわほわとした気持ちになる。

こく、と飲み込むと、また匙が差し出される。
なんだか餌付けされてる気分。

食事のあとはリンゴも食べさせてくれたし、薬も飲ませてくれた。
至れりつくせりで何だかとても幸せな気分…。

「ありがと…だいぶ良くなった…」
「そうか、よかったな」

…。
何気ない幸せって、こういうことなのかな。

幸せなんて俺は得られないと思ってた。
そんなもの幻想だって諦めてた。

けれど、トールは俺に「愛」ってやつを教えてくれて…
ああ、だめだ、熱なんて出すから…涙腺が弱くなる。



そっと頭を撫でられる。



暗く冷たく、悲しい場所は俺の居場所じゃない。
俺の居場所は、トールの隣だ。
絶対に揺るがない、俺の帰るところ。




ああ、うとうとしてきた…
さぁ、幸せな幸せな、あたたかくて光の差し込む夢を見よう。







































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