【R18】血の鎖



最近街では殺人事件が多発している。
被害者はいずれも干からびており、首筋には噛み痕があるという。
明らかに人知を超えた犯行。
人々は口々に言う。



丘の上の屋敷には、吸血鬼が住んでいると。



「確かめに来る人はいないけどね…」

窓の外を見つめながら、ぼんやりと物思いに耽る。
夜のカーテンに包まれている室内は、代わり映えのしない豪奢な造り。
しかし所々に蜘蛛の巣も見受けられる。
…掃除したい。

「あーあ…」

ごろ、とベッドに寝転がる。
退屈だ。

「…暇。ひま。ひーまー!」

じゃらり。

ベッドの上でじたばたと足をバタつかせると、重々しい鎖の音が響いた。
この鎖はすごい。何がすごいって、その距離だ。扉にも窓にもギリギリ届かない。
自由に移動できる場所は、この室内だけだ。
もっとも室内だけですべて事足りてしまうんだが。

「ラフル、何暴れてんだ」
「…!」

ぴた、と足を止め、声がした方向に目を向けると、真っ赤な目と視線がぶつかった。
いつ帰ってきたのだろう。相変わらず気配が読めない。

「…ノックくらいしてほしいかなー」
「必要ないだろ。…それより、ほら、こっちに来い」
「…」

そろそろと近づくと、ぎゅっと抱きしめられる。
苦しいくらいの抱擁に、息が詰まる。
首筋にひやりとしたものが押し当てられる。
あたたかさが無い、温度の無い、唇。

身体が震える。

「怖いか?…可愛いな」

そしてぶつっと、何かが切れ、侵食される音が脳内に響いた。




…俺は、吸血鬼に捕えられていた。

きっかけは何なのか分からない。
俺は普通に生活をしていた普通の男だ。まぁ、生きるためなら身体を売るのだっていとわない爛れた生活は、していたけれど。
それなのにまさか吸血鬼に見初められるなんて思わないじゃないか。
吸血鬼は突然現れて「お前が気に入った」なんて言って俺を拉致監禁したわけで。
俺はすぐに死を覚悟したけれど、その「気に入った」という言葉の通り、俺がえらくお気に入りのようで…すぐに干からびることはなかった。
大切に大切に、
…俺のことを食っている。
この場合、飲む?啜る?
ああ、いや、もうなんだっていいんだけどさ。

「あ…っ、ん…」
「…はは、何だ…気持ちよくなったか?」
「吸われると…っ、変…っ」
「人間には媚薬みてぇに感じるらしいなぁ…?」

ぺろ、と首筋に舌が這わされる。
血が身体を伝うのが分かった。

吸血行為には快感が伴う。
それはもしかしたら吸われる痛みを緩和させるためなのかもしれない。
痛みに気付かず、快感を感じたまま死ぬる。
まぁ、俺は殺されるほど飲まれないけど。

「は…、は…ぁっ」
「慰めてやるよ…」
「ひゃう…っ」

昂ぶりをきゅ、と握られる。
それだけでもう体が痙攣する。
媚薬の効果は凄まじいようだ。

そして血も、身体も、存分にいただかれてしまうんだ。











でも時々吸血鬼…トールは酷く怯えたように俺を抱きしめる。

「ラフル…ラフルぅ…」
「なぁに?」
「怖い夢を見たんだ…」
「どんな?」
「…お前を吸い殺す、夢だ」
「…」

曰く、トールは最近よく俺を殺す夢を見るらしい。
吸血衝動を抑えきれなくて、際限なく血を啜ってしまい、干からびさせてしまう夢。
俺の血を一滴残らず飲んだその瞬間は、一時的に満足できるらしいけど…そのあと俺を失った恐怖で支配される。俺がいないという事実が容赦なく精神を蝕む。もう得られない暖かさに涙する。他者の血は不味くて吸えたものじゃなくて、腹をすかせながら部屋で蹲る…

いつもの自信満々なトールからは考えられないほど弱くて、もろくて、頼りなくて…






愛しい。






ああ、そうだ、俺はそれを聞くたびに愉悦で体が震える。
俺を求めてる。
俺を必要としている。
俺がいないとダメだ。
俺がそばにいないと死んでしまう。
狂ってしまう。

いっそ狂ってしまえばいい…と思ってる。

可愛い可愛い、俺だけの吸血鬼。
他の血なんて吸わないでいい。
俺だけが餌になってあげる。

でも、もしも叶うのならば、トールと同じ種族になりたい。
知ってるんだよ?俺は吸血鬼になることができる。
トールは方法を知っている。でもそれをしない。
だって、俺を閉じ込めて人間の世界から隔絶させてしまったことを後悔しているから。

…俺のことを手離すことなんて出来ないくせに。

もっともっと俺に溺れて堕ちていけばしてくれるかな?





ねぇ、もっと俺を縛り付けてよ。







―捕らわれているのは、どちら?―









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