11 窓から見える景色は幾年経っても変わらない。変わったのはそこの公園で戯れていた子どもたちが、今は大人になってしまったということだけ。変わらないのに霞んで見えるのは、その場をみるフィルターが褪せてしまったからだろうか。 こんなにも記憶は鮮やかであるというのに。 リヴ、大きくなったら 僕のお嫁さんになってくれる? 「ふふ」 思わず無垢であった頃の記憶を辿ってしまう。眉をハの字にしておどおどと、しかし真っ直ぐに伝えられたサフィールの声が、今も鮮明に響いてくる。 やだ!! そう、リヴは思わず即答してしまったのだ。白黒はっきりさせるのが美徳と感じる我ながら、逞しいとさえ思う。 …どうして? 鼻を垂らしながらグスグスと泣くサフィールを無邪気に笑っていた。そう、それから私はなんて言った? ジェイドが先だもん 先に約束したんだもん だからサフィはその次ね! 純粋と無知とはある種残酷だ。堂々と大人の悩むべき所業を簡単に叶えようと口にする。勿論そんな約束はジェイドと交わしてはいない。ただ、今もあの頃も、やはりリヴはリヴ。幼稚な駆け引きをついつい出して、相手を試そうとする。あの頃もそうだった。 本当は情けなくて女々しくて頼りない彼であっても、偽りのない想いと大きな優しさは、幼いながら惹かれていた。嬉しくても、それを素直に言えない自分はいつまで経っても結局変わらなかった。その時にすらだいすきだと言えなかった。それは一重に、離れていくことのない人だからと確信しきっていたからなのかもしれない。手を伸ばせば、何時だって自分を待っているかに思えて、それが妙に居心地がよかった。 どうして 人は何かを失うというきっかけがないと、気付けないのだろう。気付いたとしても、失ってからではもう足掻くことすらできないのに。 深々と氷の屑が散っていく。それは水気が多くて、きっと積もりはしない。何事もなかったかのように融解しては、その跡すら遺してはくれないのだから。 09/12/4up [←prev]|[next→#]|story top |