V



城内の一室。

「遅いですわね」
「どこで油売ってるのやら」

一国の麗姫と失われた都市の伯爵剣士は呆れ混じり。そわそわと鶸色の柔らかなドレスと橙と茶の映える騎士正装が入交る。ドレスの波が止まり、代わりにナタリアが口を開いた。

「こんなことでしたらガイにバチカルまで足を運んでもらうべきでしたわ」
「ナタリアもバチカルにいたんだろ。いっしょに来ればよかったんじゃないか?」
「何をおっしゃいますの。ルークにはティアをエスコートして戴かなくてはなりませんもの。わたくし、敢えて一人で来ましたのよ」
「なるほどね」

一見ツンとした物言いの中にくすりと笑みが溢れていて、彼女なりの茶目っ気が垣間見えた。上品に微笑む仕草と凛とした佇まいは彼女の気高さを存分に後押ししている。

「でもいい時間ですわ…そろそろ」

ナタリアの言葉と被ってドアが開かれた。もちろん執事に促され部屋へ通された人物は二人が待ちくたびれていたその相手だった。

「悪い。遅くなっちまったな!」
「やっと来たなルーク、ティア」
「ミュウもいるですの!」
「ん、アニスとジェイドは?まだ来てねえの?」
「アニスはフラワーガールをなさいますから、手順の確認に花嫁のところにお行きになりましてよ」

ナタリアの言葉にルークがきょとんとした顔になった。

「ふらわーがーる?」
「男の人ってみんなこういうことに疎いのかしら」

ティアの呟きと一緒に視線を向けられたガイが代弁するように説明する。

「フラワーガールてのは挙式で花嫁にブーケ渡す役のことさ」
「へえ、アニスに適役だな」
「そういや、旦那は風当たりに行くって出てったきりだな。まあもうすぐ時間だし戻ってくるだろうけど」

その時、ノック音に続きアニスとフローリアンが部屋を訪れた。


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