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控え室に戻ると、別の部屋で待機してるはずのピオニーがそこにいた。やましい気持ちが生じて、ユノは思わず心臓を大きく波打たせた。隣にいたアテンダーは席を外すように伝えられているらしく、ドアの閉まる音と同時に部屋はユノとピオニーだけになった。

「驚いたぞ。…急に部屋からいなくなったって聞いて俺」
「ごめんねピオニー」

言葉を挟んでユノは一国の王に甘えるようにすり寄った。

「どうしてかな、一人になりたかったの。でも此処は介添えの方いるしどこか一人になれる場所ないかなって。…ごめんなさい」

安堵したような呆れたようなため息を吐き、ピオニーはユノの頬を撫でた。目尻に溜まった涙に気付かないふりをして。

「楽しみにしてたのにな、ドレス」
「どうかな?」
「ん。すげえ綺麗」

ピオニーがいつもよりワントーン低い声を出す時は決まって真剣である時に限るユノは堂々として何でも真っ直ぐに射抜いてしまいそうな、そんな彼の風格と態度に好意を抱いて思わず自然と笑みが溢れた。

「ピオニーも。あーあ、私も楽しみにしてたんだよ?」

誰のせいだよ、とお互い笑みを浮かべてくすぐったいように顔が綻んだ。

この人といっしょなら。和やかでいて順風な雰囲気。居心地のいい、ピオニーの隣。自身の総てを彼なら容易に包んでしまう。だからこそ嫌な女だとユノは思った。ジェイドのいう通り、ピオニーを裏切ることなど出来はしないんだ。

それならお互いの気持ちを知りあう必要もなかった。返ってジェイドを傷付ける結果となるなら尚更。

ジェイドを愛しているのに。愛を誓いあう人がジェイドじゃない。でも沸き上がる気持ちを悟られたくないのは、ピオニーを傷付けたくないから。隣にいて欲しい人と愛している人がごちゃついて、わからないと判断する自分は本当にずるい。ユノの絹肌にシ腰だけ影が掛かった。困惑する想いを埋めるようにユノはピオニーにそっと抱きついた。

「ねぇピオニー。大好きだよ。だから絶対離したりしないでね」


―…離したりしないで

決別した、あの人を
追いかけてしまう事のないように


涙に滲む。子どもがただを捏ねるような泣き方だった。それをピオニーの大きな手のひらが包んだ。

「俺もだ。お前が、お前だけが愛しい」









女の子は強かだ。

女の子は巧みな嘘をつく。

それがジェイドを断ち切る最後の手段であることにユノはもう気が付いていた。


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