お前の隣は続編 | ナノ

名前で呼んでもらう


「帰ろ?」

「あぁ、悪いないきなり」

俺が落ち着いてきたのが分かったらしく、もう一度帰ろうと言ってきたちひろ。
名残惜しい気持ちを抑えてゆっくりちひろを放してやる。

雨は止んではいないがだいぶ弱まっていて、傘を差してからちひろの手を握る。
帰り道はずっと他愛ない話をしているわけなんだけど、やっぱり気になるのは俺の呼び方。

今日の目的は一也と呼ばせること。
けどさっきからずっとちひろは俺のことを御幸と呼ぶ。

「でね御幸、」

「…一也」

「え?」

「一也、って呼ばねぇの。前みたいに」

やっぱり呼んでほしいって自分で言わなきゃダメだ。
そう思って言った言葉はなんか拗ねてるみたいになっちまった。

ちひろはというときょとんとしてたかと思うと笑い出した。
俺はわりと真面目に言ってんのに。

「あははっ、さっきから何を気にしてるのかと思えば…呼んでいいなら一也って呼ばせてもらうよ?」

「呼んでいいから今呼んでみて?」

「ふふ、一也」

あぁ、やっぱこっちのがいいわ。
微笑んでるちひろが、名前で呼ぶちひろが、すげー愛しい。

もうすぐ家に帰り着いてしまう。
その前に、もっと名前で呼んでもらいたい。

「ちひろ」

「何?一也」

「…お前の好きな人は?」

「え、何その質問。
私が好きな人は一也だよ」

「ん。俺もちひろが好きだ」

確かめるようにちひろに好きと言わせて、俺も好きだと答える。
ちひろはまたくすくす笑って変な一也、でもありがとうって言ってきた。

そしてまた歩き出す。
と言ってもすぐにちひろの家にたどり着いた。

「送ってくれてありがと一也、また明日ね」

「明日からもちゃんと一也って呼べよ。
もちろん学校でも」

「ふふ、努力します」

家の中に入ろうとするちひろをもう一度だけ呼び止める。
ガキかよって自分でも思うけど、名前で呼んでもらえて嬉しかった。
だからそれを伝えたくて、雨はすっかり止んでいたから不要になった傘をどけて、今日二回目のキスをした。
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