溜め息が出る
教室に戻って次の授業の準備をする。 今だににやにやしながら俺を見てくる倉持はほんと腹立つ。 あのヤロー、自分に好きな奴出来た時覚えてろ。
チャイムが鳴って授業が始まって、さっきのことを思い出して小さく溜め息を吐いた。
さっきはタイミングが悪かったんだ。 移動教室でなけりゃ普通に話せてたはずだし。
…つか今気づいたけど、ちひろの奴俺のこと御幸って呼んでたよな。 あの時一也って呼ばれてようやく元に戻れたのかと思ったけど、違うってのか。 一也って呼ばれて、懐かしい感覚になって、穏やかな気持ちになれたのに。
どうせなら、これからも一也って呼ばれたいんだけど。
…これもちゃんと言うべき、なのか。 寧ろ言わねぇとずっと御幸のままだよな。
問題はいつ言うか。 昼休み…は、倉持もいるからやめておこう。 やっぱ無難に部活後だな。
「…なんだこれ」
ぼーっとちひろのことを考えてたらくしゃくしゃに丸められた紙が俺の机に飛んできた。 それを広げて見てみれば"ちひろちゃんのこと考え過ぎだバーカ"って書かれてて、んなこと書いて投げてくるのは倉持しかいない。 案の定倉持はにやにやしながら俺を見ていて、しつこいという意味も込めて一睨みした。
俺がこんなにも努力してるってのに、邪魔しかしねぇのかよあいつ。 ちひろが困ってる時は過保護過ぎるくらい世話焼いてるくせに、俺が困ってるとからかうことしかしねぇのかよ。 もっと空気読めっての。
はあ、とまた小さく溜め息吐いて俺は外を見た。
だいぶ曇ってんなあ…こりゃ雨降るかもしれねぇぞ。 けど傘持ってきてねぇや。 まあ寮まで近いしいいか。 あ、そういやちひろは傘持って来てんだろうか。
「…って、結局ちひろのこと考えてるし」
倉持によって書かれた言葉が図星なのが気に入らなくて考えないようにしようとしてたのに、気づけばちひろのこと考えてやがる。
どんだけちひろが好きなんだよ俺。
自分でも呆れるほど好きだってことに、どうしようもねぇなって苦笑いと共にまた溜め息が出た。
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