空振りする
ようやく授業も終わって休み時間。 どうせなら少しでも早く行ってたくさん会話してぇし俺はすぐさまちひろのクラスへと向かう。教室に着いてちひろがいることを確認すれば、躊躇なくクラスに入っていく俺。
そりゃいつもほとんど自分の席から動かない俺が急に違うクラスに入ってくればその辺の奴らは多少は驚くわけで、すげー視線を感じる。あんま注目されんのもなんかなーとか思いつつ、ようやくちひろの目の前まで来れて、俺に気づいたちひろは目を見開いて驚いた。
「え、なんで御幸がここに…? もしかして、また倉持と喧嘩したんじゃ…」
「ばかちげーよ」
「え、じゃあ教科書でも借りに来たの…?」
「それも違うっての」
きょとんとしてるちひろが可愛い、なんて言ったら冷めた目で見られそうだな。 誰の席か分かんねぇけどちひろの前の席の椅子に座ってじっとちひろを眺める。こうしてちひろを眺めたくて、同じクラスだったらなんて最近また感じるようになってきた。
「あの、御幸…?」
「俺がここに来ちゃいけないわけ?」
「いや、そういうわけじゃないけど」
あー…そうか、なんで来たのか言わなきゃいけないのか。 お前の顔が見たかったからって素直に言ったらちひろは照れてくれんのかな。
「別にたいした用はねぇけど、無性にちひろの顔が」
「ちひろー!次移動教室だよ早く行こ!」
「やば、そうだった! ごめん御幸もう行かなきゃ! 教科書なら勝手に持ってっていいからねー!」
「え、おい!」
俺が呼び止める暇もなくちひろは友達と教室から出ていってしまって、一人教室に取り残される俺。
…なんだよこの虚しい感じ。 一番聞いてほしいとこ聞いてもらえなかったんだけど。
やりきれない気持ちになりつつ仕方なしに自分の教室へ戻ろうと立ち上がって、ふと教室の戸に目を向ける。 そしたら倉持がめちゃくちゃ笑い堪えて俺を見てて、俺と目が合った瞬間、とうとう吹き出しやがった。
「ヒャハハハハ! 御幸お前…ダッセェ!」
「…うるせぇ」
「見事な空振り三振だったな、ヒャハハッ!」
何ちょっと腹立つこと言ってんだよ。 つか人のことつけてきたのかよ。 つか笑いすぎだろ。
ぶん殴りてぇって思ったけど倍返しされるから、俺は相手にしないことに決めて無言で教室へと戻った。 ← | →
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