それは定期検診を受けたときの事だった。
「…ひーと?って、なに?」
「君にもうすぐ訪れるいわば成長期だよ。子供を産める様に成長した頃合いでやってくる、Ωの生理現象さ」
「ふうん…興味ない」
なんだかよくわからないし きっと大したことはないだろうって、僕は先生に背を向けて部屋に帰ろうとした。すると「こら」とシャツを掴まれて、無理矢理向き直させられる。
「先生 なに?僕帰りたいんだけど」
「大事な話だから最後まで聞くんだ。帰るのはその後。通常Ωはヒートを抑える為に抑制剤を飲む。だけどうちの施設では少し変わっていてね――――特に、君みたいに 子供を孕める様になった子は 凄くそそるんだよ」
「……ん?」
先生は今なんて?首を傾げていると先生は白衣のポケットから手錠を取り出して僕の両手に流れるように嵌め込んだ。
「ッ?!これはなに?!先生、僕遊んでる暇はないんだよっ?とって」
「ふふ。残念ながらそれはできないな。言っただろう?うちの施設では変わってるって。まぁ、変わっているのは私だけ、なんだけれどね。ふふふ さぁおいで、付いてくるんだ恭くん」
急に腕を引っ張られて、つんのめりながら慌てて付いていくしかできず 医務室の奥に向かっていく先生のあとを歩いていく。すると先生は壁に添うように置かれていた本棚をソッと手で押して見せた。不思議なことに本棚は回転して、45度に曲がる。そして壁の裏側が見えたんだ…
「……先生、どこへ行くの、」
「君を閉じ込めておく場所さ。天谷奴からも誰からも邪魔されない 君と僕との愛の巣だよ」
ふふ、と笑った声はいつも通りの先生のはずなのにやけに不気味に聞こえて悪寒が走った。
(逃げなきゃ…!!!)
慌てて後ろを振り返ろうとしたけれど、大人の強い力には勝てなくてそのままずるずる壁の奥へと引きずり込まれていった。
(ッ!!零さんッ 零さん…ッ!!!怖いよッ)


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