どうしよ…



「天野さんとみょうじさんには、Aグループに入ってもらいましょう。」


「うわ、いきなりエリートグループかよ。」

「アンリ先生の推薦だもん。きっと凄腕なのよ。」

「そうそう。特にみょうじさんなんか、スイーツ王子を馬鹿にしてたもんねー。」



どうしよ、どうしよ…!



「てゆーか、悔しい!スイーツ王子といつも一緒にいられるなんて。」

「あんな生意気な子がAグループだなんて、王子達がかわいそうよね。」



どうしよ、どうしよ、どうしよ!!!


転校初日が大事だって言うのに、いきなりやっちゃうなんて。どうしていつも思ってもないこと言っちゃうのよ、私の馬鹿!ああ、もう皆の視線が痛い…。



「それでは、始めてください。」

(ハッ!…まずい。先生のお話なにも聞いてなかった。)



先ほどの失態で頭がいっぱいになっていたため、私は先生の話も禄に聞かぬまま、実習をすることになってしまった。我ながらアホ過ぎる…。
何を作るかは、用意された材料と周りの様子で察せられるけれど……普通のミルクレープで良いのよ、ね?



「いちごちゃん、なまえちゃん、頑張ろうね。」

「は、はい!」

「……。」



緊張で声が裏返る天野さん。その様子は、やけに初々しい気がした。もしかしたら、天野さんも自分と同じ、友達が出来ないことに悩んで先生の話聞いてなかったのかな?……なんて、そんなわけないわよね。



(……っていうか、花房君はいつの間に名前+ちゃん付けになったのよ。)



じっと彼を見ると目が合ってしまった。そして、ニコッと王子スマイルを向けられれたので、私は反射的に顔を背ける。



「………。」

(うっ、今のも態度悪かったわよね。せっかく微笑んでくれたのに……嫌な気持ちにさせちゃったかな?今からでも謝るべき?でも、彼はそんな気にしてないかもしれないし…。ああ、人と接するのって難しい!)



結論、ミルクレープどころじゃなかった。


そうやって私が悩んでいる間に天野さんは、実習に取りかかろうと卵を手に取り、そして握りつぶして駄目にしていた。それに対し、優しい慰めの声をかける花房君と安堂君。



「慌てないで、いちごちゃん。代わりの卵はいっぱいあるから。」

「落ち着いて、もう一度やればいいよ。」

「花房君、安堂君…ありがとう。」


「なまえちゃんも、そんな怯えなくても大丈夫だよ?」

「えっ!」



突然、私に声をかけてきた花房君は、私の手の上に自分の手を重ねる。そして、「さっきから、震えてるよ?」と優しく微笑んだ。その言葉を理解した途端、私の頬はみるみる赤くなっていく。恥ずかしさに耐えられなくなった私は、また不意に言葉を吐きだした。



「怯えてないわ!少し、寒かっただけよ。勘違いしないでよね。」

「そっか。確かに少し寒いかもしれないね。」

「……っ!」



私の悪態を、彼は何でもないかのように笑って流す。そして、「はい。」と私に卵の入ったボウルを差し出した。



「ほら、時間無くなっちゃうよ?」

「あ、ありがと…。」



私はそれを素直に受け取る。やっぱり、花房君って紳士的なのね。おかげで少し気持ちが落ち着いた気がする。
よし。悩んでいても仕方ない。さっきの失態は今は忘れて、彼の言う通り私もそろそろ始めよう。
そう思ったとき、前で作業していた樫野君が私を睨んで言った。



「二人とも甘やかすなよ。誰かがヘマするとグループは連帯責任をとらされることになるんだ。足を引っ張られるのはごめんだ。」



それは私だけでなく、天野さんにも向けられた言葉だった。それに気づいた天野さんは、小さい声で謝る。



「ご、ごめんなさい…。」

「謝るくらいならマシな物を作ってくれ。…おい、みょうじ。お前もだ。さっきから何も手を動かしてないじゃないか。時間制限だってあるんだ。さっさと作ってもらわなきゃこっちが困る。…ノロマ。」


イラッ

「…さっきから聞いてれば何よ。あなた、転校生に対して厳しすぎない?初めから上手く出来る人なんていないのよ。子供じゃないんだから、考えればそれくらいわかるでしょ?」

「はあ?甘えてんのはそっちだろ。俺は忠告してやってんだ。むしろ、感謝してもらいたいくらいだね。」

「普通、同じグループなら助けあったりするものでしょ?それなのに、ヘマするな、足引っ張るなって……あなたって自分のことしか考えてないのね。」

「なんだと!!!」


「ま、まあまあ。落ち着いてよ、二人とも。」

「そうだよ。ほら、なまえちゃんも早く作ろう?」



樫野君と私の口喧嘩を止めに入ったのは、やっぱり安堂君と花房君だった。



(樫野君…嫌いなタイプだわ!)



私は、皆の視線が自分に向いていることなどすっかり忘れ、卵を手に持ったまま樫野君を指さして言った。



「さっき、私のことノロマって言ったわね?そう言ったこと、後悔させてあげる。」



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