「…なんだよ、あれ。」

「早い。動きに全く無駄がないわ。」

「しかも、あんな薄く綺麗な生地を作れるなんて。」

「さすが、アンリ先生が推薦しただけあるな。Aグループに入れるのも納得だ。」

「みょうじさん、やるなぁ!」



皆の視線が集まる。けれど、私はそんなこと気にもせず、作業を続けた。焼いたクレープの間にカスタードクリームを塗り、その上にまたクレープを重ねる。それら一つ一つの工程を丁寧に、美しく仕上げていく。



(やっぱり、お菓子作りって楽しい!)



私はどんどん完成に近づいていく喜びを感じながら、ミルクレープを作り上げた。その手際の良さに同じAグループの天野さんや樫野君達までもが目を奪われていた。



「みょうじなまえ。ミルクレープ出来ました。」

「っ、俺も出来ました!」



私が手を挙げると、樫野も慌てて手を挙げた。周りからは「はえー。」とか「きれーい。」なんて声が聞こえくる。
先生は、私達の元へやってくると、まず先に手を挙げた私のミルクレープから試食し始めた。不安なんてものはない。幼い頃、お母さんに何度も教わったミルクレープだ。見た目だけでなく味も最高に美味しいに決まっている。
案の定、先生は目を見開き、ほっぺに手を当てながら言った。



「美味しい!これは、とてもレベルの高いミルクレープね。味も見た目も素晴らしいわ。Aグループ+10点。」

「ありがとうございます。」



先生が絶賛すると生徒はざわめきだした。その後、樫野君のも試食した先生は、彼も合格だと告げた。どうやら、彼も言うだけのことはあるらしい。

けど、



「ノロマ、って言ったかしら?」

「……っち、悪かったよ。」

「わかってもらえて嬉しいわ。」



案外、樫野君は潔い人で、素直に自分の間違いを認めた。ちょっと意外だな。

それから、安堂君と花房君もミルクレープを完成させ、二人とも先生からの合格をもらっていた。となると、残り一人は……



「…貴女、ふざけてるの?」



天野さんが持つ皿の上には、真っ黒焦げで見た目ボロボロなミルクレープが乗っていた。わあ…これは、酷いかも。
それでも、先生は食べて判定しなくてはならないわけで。先生は、それを一口食べてからハンカチで口を拭いた。

そして、



「Aグループ−10点。」

(やっぱり…。)



それを聞いた周りの声は、彼女を批判するものばかりになる。「どういうこと?」「本当にアンリ先生の推薦なの?」「Aグループ失格じゃん。」そんな言葉に恐怖した天野さん。彼女は、震えた声で言った。



「あ、あの…私、ミルクレープ作ったことなくて。ってゆーか、私……お菓子作りド素人なんです!!」

「「「えええええええ!?」」」


(いや、このミルクレープ見れば、予想はつくでしょ。)



私は、皆のオーバーリアクションにを溜め息をついた。すると、何故か樫野君は天野さんのミルクレープを一口分切ってから、自分の口に放り込んだ。そして、はっきりと言った。



「……確かにド素人の味だ。おい、天野。入学決まってここに入るまで10日はあったよな。」

「うん。」

「1年以上遅れてるんだから、練習しようとか思わなかったのか?ド素人って言えば同情されて、手取り足取り教えてもらえると思ったのか?」

「そんな…「甘えんな!!!」

「俺達はプロ目指してんだ!やる気がないなら家に帰れ!!」



樫野君の言うことは、確かに正論だった。しかし、転校生に対してその言い方はやっぱり厳しすぎる。



(…ほら、天野さん泣いてるじゃない。)



私は、また後先考えずに言葉を口にした。でも、それは素直じゃない私にとっては珍しく、本心から出た言葉だった。



「女の子泣かせて馬鹿みたいだわ。」



その声は、静かな調理場によく届いた。


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