「流石、なまえちゃん。程よい飴色。粘りも理想的だね。」

「ああ。あまり練習してるところ見てなかったが、心配はいらないみたいだな。」


「天野さんは?」

「馬鹿!天野、煮詰め過ぎだ。」

「早く火を止めないと!」



ついにプリン対決が始まった。私達は2時間以内にそれぞれカスタードプリンを5個作り、それを審査員である理事長が試食して判定する。
負けたら、このグループでケーキグランプリには出られない。これは、何がなんでも勝たなきゃいけない対決だった。

いちごはすごい。それは、前から薄々気づいていた。初心者だけれど人一倍頑張るいちごの姿に、つい応援してあげたくなったのは、彼女と出会ってすぐのこと。あの頃は本当に何も作れなくて……この子は聖マリーで本当にやっていけるのか、と心配になったりもしていた。
けれど、彼女の成長は凄まじい物で。教える度に、それをどんどん吸収していく彼女の才能には、時々嫉妬心を抱いてしまうことがある。創作チョコレートケーキのときも、誕生日会で作った林檎ケーキのときもそうだった。

きっと、彼女は私なんかより凄いパティシエールになる。それはほぼ確信に近いもので、いつ抜かされてしまうのだろうかという不安と焦りで私の胸はいっぱいになる。


……でも、大丈夫。それは今じゃない。
まだ、私は知識も技術も負けてはいない…!



「よし、完成。」



この勝負、必ず勝ってみせるわ。私のプライドにかけて。



****


「ーーでは、結果を発表します。プリン対決1位は、」



天王寺会長は理事長から審査の結果を聞くと、表情を変えないまま、ゆっくり口を開いた。



「2年A組、みょうじなまえ。2位は同じく2年A組、天野いちご。」


「……っや、やったぁ!」

「なまえちゃん、いちごちゃん…!」

「お前らの勝ちだ!」



まるで自分のことのように喜びながら、此方に駆け寄ってくるスイーツ王子達。そんな彼らを見ながら、私もほっと胸を撫で下ろした。
未だにその結果を信じられない小城さんは、理事長に文句を言っていたけれど、理事長と天王寺会長がそうなった理由をちゃんと説明してくれた。



「小城さんのプリンはコクがあって美味しいのですがね、」

「っ!うそ……すが入ってる。」

「此方がみょうじさんのもの。そして、此方が天野さんのものです。」



理事長が見せてくれた私といちごのプリンに、すは入っていなかった。小城さんは、信じられないという目で私達のプリンを見つめる。そして、高等部に置いてあるオーブンを指差しながら叫んだ。



「私、此処と同じ型のオーブンで練習したのよ!一度も失敗したことないのに、」

「小城さん。いくら同じ型でも、それは同じ物ではないんですよ?練習するのなら、本番で使うオーブンで練習しないと。」



私がそう言うと、小城さんはぐっと言葉を呑み込んだ。それから彼女は、いちごのカラメルが苦い筈だと指摘したが、それは敢えて理事長の好みに合わせて作ったのだということが判明した。……なるほど、確かに理事長はいつもブラックコーヒーを飲んでいたものね。
結局、小城さんは負けを認めたものの、諦めている様子は全くなく。ケーキグランプリで絶対に後悔させてやる、と言って私達を睨みつけると何処かへ走って行ってしまった。…………これで一応めでたし、めでたし…なのかしら?


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