「おはよー、なまえ。」

「おはよう、シフォン。」



清々しい朝を迎えた私達は、小鳥のさえずりを聞きながらテラスで朝食をとる。ちなみに今日は休日なので、時間を気にする必要はない。だから、いちごは今も夢の中な訳だけれど…。
優雅に紅茶を飲んでいると、下からBグループの人達に名前を呼ばれた。朝から元気な人達ね。どうせ反応しても良いことはないだろうけれど、無視するのもあんまりなので、仕方なく私は彼女達に目を向けた。



「みょうじさーん。今日、暇かしら?」

「私達、これから裏の山でクルミ拾いに行くんだけど、一緒に来ない?」


(……はあ、やっぱりね。)


「ご生憎様、私は季節外れのクルミ拾いには興味がないの。他の方を誘ってくださる?」



私がそう言うと、彼女達は「みょうじさんはやっぱりダメね。」「つまんな〜い!」と悔しそうに後を返していった。馬鹿ね。こんな時期にクルミ拾いに行く人なんているわけないでしょ。
そんなことを思っていたのだけれど、後日いちごが彼女達にまんまと騙され、クルミ拾いに出かけたことを聞かされ、私が頭を抱えたことは言うまでもない。



****


「ケーキグランプリ?」

「うん。聖マリー最大のイベントでね。優勝するとパリに留学できるんだよ。」



ぴよぴよ幼稚園の誕生日会があってから、すっかり仲良くなった親友のかなちゃんと、今日はサロン・ド・マリーの新作ケーキを食べにやってきていた。

休日なこともあって人が多いけれど、何とか新作ケーキをゲットした私達は、パティシエールを目指しているだけあって、やはり此処でもスイーツの話に花を咲かせていた。すると、話題に上がったのはもうすぐ開かれるというケーキグランプリについてで。
転校してきたため何も知らない私に、かなちゃんは丁寧にケーキグランプリの説明をしてくれた。



「去年はね、スイーツ王子のチームが中等部で唯一2回戦まで突破したんだよ。中等部の生徒が初戦突破ってだけでも前代未聞なんだけどね。」

「へえ…やっぱり、凄いのね。あの人達。」

「もちろん!しかも、今年は天王寺会長もエントリーしたって聞くし、今まで以上にレベルの高い大会になると思う。楽しみだなぁ。」



天王寺会長って、あのコンクール片っ端から優勝しまくっている美人さんよね。確か、此処の人気NO.1スイーツの"天使のプディング"も彼女の作ったものだったはず。私もそんな凄い人と戦えるくらい、素晴らしいスイーツを作ってみたいな、なんて考えていたら……カランコロンと鳴る入店音。

何となくそちらに目を向ければ、



「………噂をすればってやつかしら?」

「いちごちゃんとスイーツ王子達だね。新作ケーキ食べに来たのかな?」



いちご達はどうやら私達にまだ気がついてないみたいで、ショーケースに並ぶケーキを見て何か話している。
かなちゃんは私を一瞥し「どうする?話しかける?」と尋ねた。きっと同じAグループだというのに、私だけ彼らと一緒じゃないから、気を使ってくれたのだろう。本当に優しい子だ。だから、私も少しだけ素直になろうと口を開いた。



「別に気にしなくていいわよ。……今日、かなちゃんと二人でスイーツ食べに行くの、ずっと楽しみにしてたんだから。」

「っ、なまえちゃん…!」





「あれ、なまえちゃん。偶然だね。」

「え?あ、ほんとだ!かなちゃんもいる!二人共、スイーツ食べに来たの?」


「……う、うん。」

「……はあ。サロン・ド・マリーに来てるんだから、それ以外にないでしょ。」

「「「「?」」」」



いちごもスイーツ王子達も空気が読めなさすぎ。

私とかなちゃんは顔を見合わせ、そして同時にプッと吹き出した。それを見た花房くんは「随分、二人は仲良くなったんだね。」と私達に笑いかけた。



****


「ねえ、かなちゃん。あの人、誰?」

「あの人は、小城美夜さん。中等部の三年生でシャトー製菓の社長令嬢なの。」

「シャトー製菓って、あの大手菓子メーカーの?」

「うん、そう。なんか樫野くんに惚れてるみたいでね。去年はスイーツ王子達と一緒に、ケーキグランプリに出場してたんだよ。」

「……へえ、あの人と。」



「なら、実力のある人なのね。」と私が言うと、かなちゃんは「うーん。どうだろ?」と苦笑を浮かべた。?何かあるのかしら。

私達の席は、いちご達の座るテーブルから少し離れているため、よくわからないけれど……いちご達は何故か小城さんの作ったプリンを食べた後、何か揉めだしたみたいだ。周りがいちご達を見て、ザワザワしている。大丈夫だろうか?
いちご達が心配になった私は、かなちゃんに一言断りを入れてから彼らの元へ足を向ける。そうして、一番近くにいたいちごに声をかけると、彼女は私に抱きついて言った。



「私もなまえちゃんも、これより美味しいプリン作れるもん…!」

「……は?」



****


「ほんっと、ごめんなさい!」



いちごは頭を下げながら、その上に手を合わせた。そんな彼女に、はあっと溜息をつく私。

どうしてそうなったのか未だに理解できないが、どうやら私はケーキグランプリの出場をかけたプリン対決を、いちごと小城さんとすることになったらしい。本当に何で私まで…。
聞くことによると、ケーキグランプリには5人で1チームとして出場するらしい。…つまり、この勝負に勝って花房くん達と一緒のチームになれる人物は2人のみ。これで負けたら他の人と組んでチームを作るか、出場を辞退する他ないってことだ。

そんな大事なことを、売り言葉に買い言葉で不意に決めてしまうのは良くないと思うけれど……仕方ないわね。私はテーブルにプリンの材料を並べながら、口を開いた。



「いちごのプリンの腕前がどのくらいかは知らないけれど、私もケーキグランプリには出場したいの。悪いけれど、今回はあなたに手を貸してあげられそうにないわ。面倒ならスイーツ王子達に見てもらって頂戴。」

「え、あ………うん。」

「それから、」



私は一度そこで口を閉ざし、持っていた泡立て器をいちごに向ける。そして、フッと悪そうな笑みを浮かべて言った。



「私、このプリン対決。小城さんにも、いちごにも負けるつもりはないから。覚悟しておきなさい。」



私の宣戦布告に、いちごはゴクリと唾を飲み込んだ。


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