「ちょっ…そのケーキ、僕達の!」

「はあ?」


「そっくり……私が、考えたのと……」



困惑した表情を浮かべ、いちごがそう呟くと、中島さんはいかにも白々しい態度で言った。



「やだ、変なこと言わないで。私のデザインよ?」

「そっちが真似したんじゃないの?天野さん。」

「え、そんな…っ」


(ああ、そういうことね…)



彼女達の意図に気がついた私は、彼女達に冷ややかな視線を送る。
彼女達は、いちごか…または私が気に入らなくて、当日こうして私達が困るようなことを仕掛けたんだ。それも此方がデザインを盗んだ、なんて疑惑を招くことまで言って……なんて、性格が悪い人達なのかしら。自分達のプライドはないわけ?

……ううん。私が一番怒っているのはそこじゃない。



「まあ、でも……その子、15日生まれだっけ?良かった。あゆちゃん、4日生まれだから此方が先に披露されるわ。」

「同じケーキ出されたらガッカリだもんねぇ。真似したって言われるどころだったわ。」



そう。これは、私達だけの問題じゃない。これじゃあ、このケーキを待ってくれているりんごちゃんの気持ちは、一体どうなるの…?



「……………最低ね。」

「はあ?」

「なあに、みょうじさん。言いたいことがあるなら、はっきり言いなさいよ。」



ボソッと呟いた私に、彼女達は目角を立てる。いちごも不安げに私を見つめていた。…別に、あなたがそんな顔をする必要はないのよ。悪いのはこの人達だもの。私は、彼女達を真っ直ぐ見つめ返しながら口を開いた。



「突然転校してきて早々、Aグループに入った私達にムカつくのはわかるわ。それに今回は、未発表だったものを盗作されてしまった私達の管理の甘さも悪かったと思ってる。」

「なまえちゃん…?」

「でもね、あなた達わかってる?あなた達が盗作したことによって、一番傷つくのは私達じゃないのよ。真似したって言われて、皆に嫌われて、悲しい想いをするのはりんごちゃんでしょ。
あなた達の勝手な嫉妬心のせいで、関係のない幼い子供が傷つくことになるのよ。」

「「「っ、」」」



誕生日っていうのは、その人にとって1年に1度の特別な日。この世に生まれてきたことを感謝して、家族や友達、恋人に祝ってもらって、幸せな味のケーキを皆と一緒に食べる。……そんな素敵な日を壊そうとするなんて、絶対に許せない。



「私、あなた達のケーキを作る技術は凄いと思っていたけれど、どうやら買いかぶりすぎてたみたいね。だって人を不幸にするために作られたケーキなんて、美味しいはずないもの。あなた達にパティシエを目指す資格なんてないわ。」

「な、なんですって…?!」

「言わせておけばっ!」

「……放っときましょ。早くしなきゃ、バスに乗り遅れちゃうわ。」

「そ、そうね!」



中島さんがそう言うと、Bグループの子達は少し駆け足でドアの向こうへ消えていった。…ふん。言い返せないから逃げるだなんて、大したことないわね。さて、



「お誕生日会は12時。あとちょうど1時間しかないわ。さあ、どうする?………って、何よその顔。」



振り返ると、いちご達はボケーッとした顔で私を見ていた。間抜け面とはまさにこのことね。そして私の声にハッとすると、何故だか目をキラキラ輝かせて私に詰め寄ってきた。え、え?なに?
混乱する私に、彼らは興奮したように口を開いた。



「今のみょうじさん、すごく格好良かったよ!」

「ああ。なんか、スッキリしたな。」

「特に最後の台詞とか、決まってたよね!」

「うんうん!なまえちゃん、言いたいこと言ってくれてありがとう。」

「〜〜っ、」



な、ななななななによ、それ!

急に褒められ、ポンッと顔を赤くした私は「ば、馬鹿みたいだわ。さっさと、新しいケーキのデザイン考えるわよ!」と目を逸らしながら言い放った。
そんな私を見て、樫野くんが「今日もツンデレ絶好調だな。」と言っていたけれど、それは聞こえなかったことにするわ。

それから私達は、いちごがもう一度りんごちゃんのために考えたデザインでケーキを完成させ、それを持ってバス停まで走り出したのだった。



****


私達がバス停に着いた頃には、もう既にバスは発車してしまっていた。次のバスを待つにしても、先生の車を借りるにしても、12時から始まる誕生日会には間に合わない。どうしようか、と困っていたときに聞こえてきたのは小泉さんが私達を呼ぶ声だった。



「しかし、驚いたよ。いきなりヒッチハイクされて、」



そう笑って話すのは、私達をぴよぴよ幼稚園まで乗せて行ってくれることになった車の運転手さんで。彼は、私達が急いでいることを知ると、さらにスピードを上げて山道を降りてくれた。……しかし、カーブ続きのこの道でケーキを崩れないように運ぶのはとても困難なことである。


キキィッ


「きゃあ!」

「気をつけろ!ケーキが潰れたらどうするんだ、馬鹿!」

「わ、わかってるわよ!」


キキィッ


「うぅ…」

「なまえちゃん、大丈夫?」

「…酔ったかも。」


キッキイィィィッ!!!!


「「「うわああああああ」」」

「みんなっ、ケーキを守れ!!!」



そんなこんなで、どうにかケーキを死守した私達は、りんごちゃんが待っているであろう教室へ急いで向かった。しかし、車酔いで気持ち悪くなってしまった私は、幼稚園の先生に許可をもらい、一人別の部屋で休ませてもらうことに。
りんごちゃんの笑顔を見ることができなくて、非常に残念ではあるけれど…何はともあれ無事に間に合って良かった。

後でちゃんといちごに、ケーキを食べた皆の反応を聞こう。そう思っていると突然、ガラッと教室のドアが開く音が。振り返れば、そこには花房くんがミルクティーとケーキを持って立っていた。



「体調はどう?」

「だいぶマシになったわ。」

「それは良かった。はい、これみょうじちゃんの分。」

「ありがとう。」



ケーキ皿とフォークを受け取った私は、早速ケーキを食べ始める。すると、花房くんはフフッと上品に笑った。その笑みに内心ドキッとしながらも、私は訝しげな眼差しを彼に向ける。



「な、なによ……」

「いや?子供は好きじゃないって言ってたのに、あのとき一番怒ってたの、なまえちゃんだったなと思ってさ。」

「……だって、誕生日は特別な日でしょ。」



目を閉じれば、今でも透明に思い出すことができる。

お父さんが作ってくれた大きなホールケーキに、蝋燭をさして……それから、バースデーソングを歌ってもらうの。どこにでもあるような、でも一瞬の儚い幸せなひととき。私にとって何よりも大切な家族の思い出。
だから、そんな日にりんごちゃんの悲しい顔は見たくなかった。ただ、それだけよ。

花房くんは、私がケーキを食べ終えるまで、ずっと隣に座り待っていてくれた。


それから暫くすると、いちごや小泉さん達がやってきて「今日から私達は親友や!」と突然の親友発言をされ、ついに私は人生初の親友というポジションを獲得した。べ、別に嬉しくなんかないけどね!!!


こうして私達は、無事にぴよぴよ幼稚園お誕生日会を終えたのだった。



prev / next

[ back to top ]
×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -