「天野いちご!樫野に褒められたからって良い気にならないでくださる?」



樫野君のポケットから出てきたのは、スイーツ精霊でした。

私は、シフォン以外のスイーツ精霊を今まで見たことがなかったので、目を丸くする。この子は、樫野君のスイーツ精霊だろうか。いちごに敵意むき出しの彼女は、目を釣り上げながらまた口を開いた。



「大体何故、貴女がAグループですの!?納得行きませんわ。」

「そ、そんなこと言われても…」

「…え?」

「いちごちゃん?」



いちごが困ったように言うと、スイーツ王子達は目を見開き固まった。何をそんなに驚いているのかしら?私といちごは首を傾けた。ちなみに、私が不思議そうに彼らを見ていることに、今は誰も気が付いていない。
樫野君は驚いた顔のまま、スイーツ精霊を指さして言った。



「天野。まさかお前、これが見えるのか…?」

「え、ええ。」

「ショコラ!いい加減にしなさいよ。」



いちごが頷く同時に、彼女のポケットからもスイーツ精霊が飛び出してきた。ピンクのフリフリした服を着た可愛らしい女の子。…あの子はきっと、いちごのスイーツ精霊ね。
いちごと樫野君のスイーツ精霊は、自分達が持っているスプーンとフォークで攻撃しあう。それを見ながら、花房君が呟いた。



「いちごちゃんにもスイーツ精霊がついていたんだ。」

「え?う、うん……あっ!いちごちゃんにもって…!」



いちごが大きな声を出すと、先生が此方を振り返った。慌てて笑って誤魔化すと、先生は何もないと判断したのか、また他の生徒のケーキを見に行く。…ふう、危ない。いちごは、ほっと胸を撫で下ろした。



「大丈夫だ。他の人には見えていない。」

「見えるのは精霊がついてる人だけ。」



そう言って微笑む花房君。その隣りで頷く安堂君。きっとこの二人にも、スイーツ精霊がついているのだろう。

それから彼らは、今夜そのことについて話すために集まろう、と言う話をし始めた。私には聞こえないように、こそこそと。
すっかり仲間外れにされてしまった私は、どうするか迷って、自分のポケットを除きこむ。シフォンも出て行くタイミングを逃してしまったのか、不安げに此方を見つめていた。



(うぅ…今、声かけるのはだいぶ勇気がいるわね。)



でも、せっかく友達になれたのに仲間外れなんて絶対イヤ。私はついに覚悟を決めて彼らに声をかけた。



「…あの!わ、私も今夜の集まりに行って良いかしら?」



突然の私の申し出に、スイーツ王子達は目を丸くする。そして、申し訳なさそうに眉を下げて言った。



「あー。みょうじさん、ごめん。……ちょっと今日は、」

「…スイーツ精霊の話をするから、ダメ?」

「そう。スイーツ精霊の話をする、か…ら………って、みょうじさん?!」



私の言葉に驚く彼らは、予想通りで。私は、苦笑を浮かべながら口を開いた。



「私にもスイーツ精霊がいたら、問題ないでしょ?」



私のポケットから出てきたシフォンを見て、皆がまた固まったのは言うまでもない。



****


「この子はバニラ。転校してきた日にこの調理室で会ったの。」

「この子はシフォンよ。私達も転校してきた日にここで出会ったの。」


「こっちはショコラ。1年のとき、やっぱりここで…。」



いちごと私と樫野君がそれぞれ、自分のパートナーを紹介する。すると、紹介されたバニラとショコラは、またさっきのように喧嘩を始めた。



「落ちこぼれコンビ!」

「気取り屋ペア!」

「すーぐ鼻血出すくせにぃ!」

「取り柄はチョコだけじゃない!」



この子達、相当仲が悪いのね…。何だか、いちごと樫野君を見ているようだった。そんな二人の喧嘩を、いちごが止めに入る。だがその前に、シフォンと安堂君のポケットからスイーツ精霊が飛び出していった。



「やーめーてー。喧嘩しないでぇーあぁあああ!!」

ドンッ


「こら!いちご達。喧嘩、両成敗だよ!…って、キャラメル。大丈夫?」

「うぅ…ふぇ、痛いですぅ。」



勢い余って、流しに落ちてしまったオレンジ色のスイーツ精霊は、目に涙を浮かべている。あれは、かなり痛そうだ。それを見たシフォンが慌てて手を差し伸べた。……あれ?名前知ってるってことは、シフォン達は知り合いなのかしら。
すると、安堂君は「ったく、しょうがないな。」と言って、キャラメルを持ち上げた。



「この子、僕のパートナーのキャラメル。」

「こ、こんばんわですぅ〜。」



キャラメルがペコッと挨拶すると、今度は花房君の方から別の声が聞こえた。いちごと一緒にそちらを見ると、花房君の手のひらの上にもスイーツ精霊が。

彼は落ち着いた話し方で、私達に説明してくれた。



「僕ら皆、精霊界の同期なんです。バニラとショコラは、向こうでもよく喧嘩していました。そして、それを止めるのは、いつもシフォンでした。」

「彼はカフェ君。」

「ボンソワ。いちご、なまえ。」



優雅にお辞儀する姿が、何だか花房君のパートナーらしい。私は、元気良く「よろしく!」と言ういちごの隣で「よろしくしてあげるわ。」と可愛げなく言うのであった。





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