「お世話になりました!」

「また、ゆっくり遊びに来てくださいね。」

「はい!」



いちごが元気よく返事をする。辺りはもう真っ暗で、早く帰らなくては門限に間に合わない。さあ帰ろう、と『夢月』に背を向けると、後ろから呼び止められた。



「なまえ姉ちゃん!」

「…一太君?」

「俺の夢、決まったぜ。兄ちゃんが隣に店を出すなら、俺はうちを継いで見せる!」



一太君は、迷いのない目でそう言った。どうやら、彼はもう大丈夫のようだ。私はクスッと笑い、一太君の頭を優しく撫でる。
「応援してるわ。」そう言って撫でる手を下ろすと、一太君はいちごの方へと向き直って声を上げた。



「見てろよ!素人のお前なんか、すぐ追い抜いてやるからな。俺とお前は、今日からライバルだ!」

「ちょっと…小学生にライバルなんて言われなくないんだけど。」

「自信ないのか、ケーキ豚!」

「あっ、また言ったー!私は、大食いクイーンなんだからー!!」



一太君に馬鹿にされ、追いかけ回すいちご。その様子を私達は、呆れ顔で見ていた。小学生相手に良いのか、なんて……さっき小学生に慰められた私が言えることじゃないけれど。
私は、いちごを置いて帰ろう、なんて言って歩き出す樫野君に苦笑を浮かべる。まさか、本当に置いてったりはしない…わよね?花房君と安堂君も、彼のあとを着いていくので、慌てて私も足を進めた。


ヒソッ

「なまえ、ほら。今がチャンス!」

「……あ、」



ポケットの中から小さな声が聞こえた。そして、今日何が目的で来たのかを思い出す。



(…そうよ。今しかない、わよね。)



後ろを振り返ると、いちごに追いかけられている一太君の姿が見えた。……一太君だって頑張ったんだ。私だけ、ずっと逃げてるなんて格好悪い。私は意を決し、すぐ前を歩く花房君の服の裾を掴んだ。



「ま、待って!」



すると、前の三人は振り返り、私の顔をじっと見つめた。私は、目を泳がしながら必死に何を言うべきか考える。昨夜考えた台詞はもう思い出せない。でも、また考えずに口を開けば、棘のある言葉が出てきてしまう。



(……いや、大丈夫。一太君やシフォンとは普通に話せてるじゃない!)



彼らの前でも、きっと素直に気持ちを伝えられるはず。覚悟を決めた私は、いつもより小さい声でゆっくり言葉を発した。



「あの……私、素直になるのが苦手で。それで、よく誰かを傷つけたり……怒らせたりしちゃう、けど。ほ、本当は……そんなことを言いたいわけではなくて。
皆と、その……な、仲良くしたい、と思ってて…。だから、えっと…つまり、」

「「「………。」」」

「て、転校初日に三人の悪口を言ってごめんなさい!」



私はそう言って、ガバッと頭を下げた。顔が熱い。きっと、耳まで真っ赤になっているはずだ。まるで逆上せたみたいに頭がクラクラする。



(そして、沈黙が辛い…!)



三人の反応が気になるが、怖くて頭を上げられず、ずっと頭を下げ続ける私。誰か、何か言って!そう願っていると「プッ」と誰かの吹き出す音と同時に笑い声が聞こえた。



「「「あははははは!」」」

「なっ…何で笑うのよ!」



私が顔を上げると、そこにはお腹を抱えて爆笑するスイーツ王子達。一体、何がそんなに面白いんだろうか。
自分は真剣な話をしていたというのに笑われ、腹が立った私は、キッと三人を睨みつける。すると、安堂君が目に涙を溜めながら口を開いた。



「ごめんごめん。まさか、みょうじさんがそんなこと気にしているとは思ってなかったから。」

「大体、転校初日って…いつの話してんだよ。そんなこと忘れかけてたぜ。」



樫野君は、笑いが収まると呆れたように言った。私は、その言葉にポカーンとしてしまう。忘れかけてたって…そんなにどうでも良いことだったの?



「もしかして、なまえちゃん。ずっと、それ気にしてたの?いちごちゃんとは普通なのに、僕たちとは余所余所しかったり。この前のサロン・ド・マリーへ行こうって誘いを断ったのも、全部それが原因?」

「そ、そうよ。悪い?」



花房君の言葉に反論できず、開き直ったように言うと、花房君はクスッと上品に笑った。



「別に気にしなくても良かったのに。…あれが、なまえちゃんの本心じゃなかったことくらい僕達は気づいているし。」

「…え?」

「みょうじさんは本当はすごく優しい子だって、Aグループ全員知ってるよ。みょうじさん、天野さんのこと庇ったり、手伝ったりしてあげてたし。さっきだって一太のこと面倒見てくれただろう?あいつ、家族以外にあんまり懐かないから驚いたよ。」

「そういうこった。だから、そんなビクビクしてねぇで普段通り毒吐いたって良いんだ。別にそんなことで俺達は、お前を嫌ったりなんかしねぇよ。」



その言葉に私は、何だかほっとして、その場にヘナヘナと座り込んだ。緊張の糸が切れる、とはまさにこのことだろう。花房君が慌てて私の腰に手を回し、支えてくれたので服が汚れることはなかったが。

私は、赤く染まった顔を両手で隠しながらボソッと言った。



「…………何よ、それ。言ってて恥ずかしくないの?」



でも、

”ありがとう”。


そう言うと、スイーツ王子達は優しい笑顔を見せた。ちゃんと、素直になって良かったな。後ろでいちごの「置いてかないでよー!」と言う声が聞こえて、私達はまたおかしくなって笑ってしまった。



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