「お待たせしました。お団子セットです。」
「すみませーん。こっち、白玉金時3つお願いします。」
「かしこまりました。白玉金時3つですね。少々お待ちください。」
「あ、お姉さん!お姉さんのお勧めは何かしら?」
「そうですね…。私は、やはりこの店一番の人気商品である豆大福がお勧めです。ふっくらほどよい甘さに炊きあげた粒餡はとても絶品で、子供からお年寄りまで美味しく召し上がっていただけると思います。」
「あら、そうなの!じゃあ、その豆大福4つ買っていこうかしら。」
「ありがとうございます。」
「おねえさーん!」
「……はーい。」
(…い、忙しい。)
ヒソッ
「なまえ、大丈夫?」
「……なんとかね。」
いちご達と一緒に『夢月』のお店を手伝いにきた私は、あまりの客の多さにバタバタしていた。
裏方希望であったのに、なぜかいちごと同じ接客にまわされてしまった(いちごと花房君が推薦したせい)私は、注文をとったり商品を持って行ったりと忙しく、休む暇もなかった。
(……これじゃ、スイーツ王子に謝る余裕もないかも。)
はあ、と深い溜息をついた。
「白玉金時3つと豆大福4つお願いしま……なにしてるの?」
「ヒエッ、なまえちゃん…!」
受けた注文を伝えるため裏へ戻ると、そこに休んでいるいちごの姿があったので、私は額に青筋を浮き立たせた。こっちは休む暇なく働いているっていうのに、この子ったらもう…!
私の顔を見たいちごは、真っ青になりながら慌てて起立する。すると、安堂君が笑いながら言った。
「みょうじさんも店手伝ってくれてありがとう。疲れただろ?ちょっと休憩にしようか。」
「……別に、私は疲れてないけど。皆が疲れたって言うなら、仕方ないから付き合ってあげるわ。」
「「……あはは。」」
私がまた上からな態度をとってしまったけれど、いちごと安堂君は怒ることもせず、ただ苦笑を浮かべるだけだった。ふう、良かった…。
どうやら、花房君と樫野君は既にもう休憩をしているらしい。私達は、彼らがいる部屋へ向かうことにした。
ヒソッ
「なまえ。」
「………。」
安堂家の長い廊下を歩いている途中、ずっとポケットの中に身を潜めていたシフォンが小さい声で話しかけてきた。私は、チラッと前を歩く二人に目を向ける。…良かった、二人には聞こえていないようだ。私は、シフォンにしか聞こえないくらいの声で短く返事をした。
「…どうしたの?」
「今がチャンスだよ。さっさと謝って、仲直りしちゃおう!」
「わ、わかってるわよ。」
シフォンの言葉に、私はムッとして言い返す。…わかってる、わかってるわよ。せっかくのチャンスだもん。今日こそは覚悟決めて、ちゃんと彼らに謝らなくちゃ。
昨夜、シフォンと一緒に考えた台詞が頭の中をぐるぐる回る。
(大丈夫、何度も謝る練習したし。きっと、大丈夫よ。)
私は、ギュッと拳を強く握る。ドクンドクンと心臓の音がうるさい。ああ、変な汗まで出てきた!もうすぐ、花房君達がいる部屋に着く。そんなとき、私達の前に小学生くらいの男の子が現れた。
「ケーキ屋は帰れ!」
その男の子は、安堂君の弟さんで。私達を睨みつけると、また何処かへ走って行ってしまった。……今のは、何だったの?私は、彼の行動に呆気にとられ、頭にあったはずの謝罪の言葉も忘れてしまった。
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