「今日の実習が例え得意なケーキだったとしても、しっかり復習しないとね。」



私は、夜の誰もいなくなった実習室で一人、今日の復習をしていた。『努力なしで美味しいケーキは作れない。』それは、お母さんがよく言っていたことだった。私は、ずっとその言葉を信じている。

さっきは急いで作ってしまったけれど、今度は、そんなに焦らずクレープを焼いた。良い具合に何枚か焼けたら、カスタードを丁寧に塗る。それを何度も繰り返し、実習のときと同じ綺麗なミルクレープを完成させた。



「よし。できたわ!」



完璧な出来前に満足した私は、早速そのミルクレープを食そうとフォークを握った。そのときだった。



「美味しそうなミルクレープだね。私にも食べさせて?」

「っ?!」



突然聞こえた女の子の声。私は慌てて、その声がした方に目を向けた。そして、目を大きく見開かせる。そこに居たのは、とても小さな…手のひらサイズの女の子だった。



「あ、驚かせてごめんね。私はスイーツ精霊のシフォンだよ。」

「スイーツ、精霊?」

「うん。スイーツ王国からやってきたんだ。さっきの実習の様子も見てたけど、貴女すごくケーキ焼くの上手だね。ビックリしちゃった!」



ニコッと可愛らしい笑顔を見せる女の子。彼女は、大きなフォークを持ち、背中に羽を生やし、確かに妖精のような姿であった。私は、慌てて自分の頬を抓る。



「……い、痛い。ってことは、夢じゃない?!」

「あはは、夢じゃないよ?私達、スイーツ精霊はね。いつもはスイーツ王国に住んでるんだけど、ある時期になると修行のために人間界に出てくるんだ。
そこで、気に入った人間とコンビを組んでね。最高のスイーツを作っていくの。それが認められたら、王国の宮廷パティシエになれるんだよ!」

「…じゃあ、貴女もパティシエールになりたいの?」

「そうだよ。だから、もし良かったら私のパートナーになってくれないかな?」

「え、私が…?」



私は突然の誘いに驚き、そして首を横に傾げた。他にだって良い人は沢山いるだろうし、こんな捻くれ者の私を選ぶ理由がわからなかったのだ。妖精は、そんな私を見てクスクスと笑った。



「私、貴女のことずっと見てたんだけどね。ケーキ作りの技術も勿論すごいけど、何よりケーキを作っているときの貴女から、”楽しい!”っていう気持ちが沢山伝わってきて…私もこの子と一緒にスイーツを作っていきたい!って強く思ったんだ。」



そう言われて、私は実習のときのことを思い出す。
…確かに楽しかったけれど。そんな顔に出てかな?私は、何だか恥ずかしくなって俯いた。すると、妖精は「それにね、」と話を続けた。



「貴女は素直になれないだけで、本当はとっても優しい子。だから、私とパートナーかつお友達になってほしいと思ったんだ。」

「おと、もだち…?」

「うん。きっと私達、素敵なお友達になれると思うよ!」



妖精は、小さな手を差し伸べて言った。「一緒にスイーツ作りと友達作り。頑張ろう?」と。私はその小さな手に、自分の人差し指をゆっくり付けた。すると、妖精は嬉しそうに微笑んだ。



「よろしくね。なまえ!」

「……よろしく、シフォン。」



初めてのお友達は、小さな妖精さんでした。



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