私は6、7人用テーブルに1人で座り、夕食をとる。周りから視線を感じるのは、今日一日ですっかり慣れてしまったみたいだ。こんなの慣れたくはなかったけれど。

あれから、天野さんは何処かへ行ってしまって、夕飯の時間になっても姿を現さなかった。…まあ、あれだけ言われたら仕方ないわよね。
天野さんには同情する。けれど、私は彼女を探しに行こうとは思わなかった。だって、例え彼女に会えたとしても、かけてあげる言葉なんてどうせ見つからないのだから。



(…それに私は今、自分のことで精一杯なんだもの。)



友達なんていなくても、お菓子は作れる。そんなことわかっているけれど。初めての友達を期待していた分、今のこの状況は辛いものがあった。ぼっちで夕食とか泣きたい。

ここに編入する前は、家のこととかでいっぱいいっぱいだったから、友達を作ってる暇なんてなかった。…というか、そもそも私ってこんな性格だし。誰にも好いてもらえていなかったのよね。まあ、これは自業自得だけど。
あーぁ。転校を期に今回こそは!って思ってたんだけどなぁ、



(やっぱり、私は独りぼっちの方がお似合いなのかな…?)



「隣り、座って良いかな?なまえちゃん。」

「………花房君。」



声をかけられて顔を上げると、そこにはニコッと綺麗に微笑む花房君の姿があった。今日一日、この笑顔を何度も見てきたけれど、やっぱりこのキラキラ感は慣れない。
私は、少し離れた席に座っている安堂君と樫野君の方に目を向けながら口を開いた。



「貴方、いつも彼らと食べてるんじゃないの?」

「うん。でも、たまには可愛い女の子と食べたいじゃない?」

「……はあ。うるさくしないでよね。」

「もちろん。」



花房君が私の左隣りの席に腰を下ろす。すると、それを遠目で見ていた女子達が悲鳴を上げた。うわぁ…うるさい。
私は、まるで何事もなかったかのように澄ました顔で食事を続ける。でも、内心は余裕なんて全然なかった。



(平常心、平常心よ…!)


「いちごちゃん、まだ帰ってきてないの?」

「…ええ。あなたの友達がボロクソに言ったせいでね。」

「僕も転校初日であれはキツイと思ったよ。樫野には僕からもちゃんと叱っておくから、許してあげてほしいな。」

「そういうのは、私じゃなく天野さんに言ってちょうだい。……なに、そんなことを言うために来たの?」


(あーもう、私ったらまた酷い言葉を!)



せっかく花房君が優しい言葉をかけてくれているのに、私は相変わらずの辛口で返してしまう。…これじゃ、また女子に生意気だと言われちゃうわね。
私は夕食を食べ終え、コップに残ったお水を全て飲み干した。早く部屋に戻ろう。きっと、これ以上この場所にいたら、また彼に酷いことを言ってしまうだろうから。



「ごちそうさま。」



私は、ガタッと音を立てて席から立つ。そして、食器を乗せたトレイを戻しに行こうと体の向きを変えた。
歩きだそうと、足を一歩踏み出したとき。花房君は、私に向けてこう言った。



「僕がなまえちゃんとご飯を食べようと思ったのは、なまえちゃんともっと話してみたかったからだよ。」

「………何それ、馬鹿みたいだわ。」



私は、顔を赤く染めながらそう返した。



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