02(2/2)



 初めの授業を受けて昼休み、午後と過ごしていくと"私オタクだから"というレッテルを自分で貼ってるのもバカらしくなってきた。
めっちゃくちゃいい人達ばかりで、先ほどとは違う意味で泣きたくなる。

「えーんみんな優しい…」
「なんだよいきなり普通だって」
「イケメンかよ……」
「知ってる。惚れんなよ〜!」
「くっそ、それイケメンじゃなかったら殴られてるぞ」
「ははは!違いねえ!」

 この隣の席のフランクな男子も、前の席のナルシスト男子もバカが好きな男子も嫌みがなく、優しい。なんだこの世界。私これ元の世界に帰る必要ある?そもそも、みんな連れてきちゃってるし何か問題あるんだろうか、いや大有りか。
 特に苛められたこともなければ、友人たちと縁が切れるほどのケンカもしたこともないから、これといって優しさに飢えているわけではないけれども。全員が全員優しかったことなんてなかったし、それが普通だったために優しさに充てられてしまったようだ。
 これもこの学園で二人目の女子という特典なのだろうか。ありがたい限りである。

「授業終わったし、校内探検でもするかな〜〜」
「お?案内しようか?」
「ううん、探検したいから一人で行くわ。ありがと!」
「気を付けてな〜また明日!」
「またね!」

みんなと別れて校内探検と洒落混んだ私は手っ取り早く宮地くんに会うため、星座科に向かった。みんな優しいのはわかるが、一人の時間もほしいところだったので、嘘も方便ということにしてほしい。
 階は同じだったはずだから…と、表記を探していると、ちょうど道場に向かう予定だったのか教室を出る宮地くんと出くわした。
自然と笑顔になる頬をそのままに大きく手を振って名前を呼ぶと、一瞬誰かわからなかったようだが間をおいてわかったようだ。

「田中!お前、女じゃなかったのか…!?」
「かくかくしかじか、よ!」
「それで伝わるのは漫画の世界だけだ。ちゃんと説明しろ。」
「スカートがダメになっちゃったんだよね〜明日にはなんとかなるんじゃないかな!これは兄の制服!」

 かくかくしかじか、口で言っただけじゃやっぱ伝わらないのね。無念。
胸を張って言うと呆れたように溜め息を吐いた宮地くんは能天気な奴めとでも言いそうな雰囲気である。

「能天気な奴だな…」
「ほーらね!えっ!?まじで!?」
「む、なんだ?」
「あ、いやこっちのはなし!ははは!」
「おーい宮地、道場行くんだろ?」
「ああ、今いく。…じゃあな、田中」
「またね〜」

 恐らくあの高身長は白鳥くんだろうか。顔はよくわからないが宮地くんに普通に話しかけられているところをみるとそんな感じだ。それとなく見送って、何とはなしに校内を歩き回るも恐ろしいほどキャラクターに会わない。いやいいんですよ。いいんですけどね。ミーハー心というものが私にもあって、せっかく好きな舞台にこれたのだからちらっとでも見たいじゃないか。下心があったにせよこんなことってあるのか、と最後の望みをかけて五階に向かう。
 階段を軽快に上がっていくにつれて、微かにピアノの音が近づく。おや、これはもしかして…?そう、期待に胸を膨らませて音楽室のドアを音を立てないようゆっくりと開けると、ウェーブのかかった柔らかそうな桃色の髪の細身の彼が鍵盤に指を滑らせている最中であった。

「(わ、わあ…!!美人…!!)」

 教室を少し覗き込んだ上、横顔を拝んだだけではあるがその美しさたるやクラスメイトの顔が霞んでどこか遠くに行ってしまうほどである。息も忘れてしまうというのはこのことか。ドアに手を掛けたままじっと旋律を奏でる彼に目を奪われた。

「……ほんと綺麗」
「っ、誰ですか!?」
「あっ、しまった」

思ったより大きな声で呟いてしまったのかピアノの軽快な音は瞬時に消え、焦ったような怯えるような表情の彼がこちらを凝視してきた。彼から見たら完全に私は不審者である。その気持ち、わかるよ。ごめんね颯斗くん。

「ご、ごめんね邪魔しちゃって…綺麗なピアノだったからつい聞き耳立てちゃった」
「…そう、ですか。」
「あー…えーと……」

 演奏をぶった切ってしまい、更には良くも知らない人に話しかけられて困惑するどころか貼り付けたような笑みを浮かべる颯斗くんに違和感を覚えつつ、なんとか仲良くなりたいとは思う。思うがしかし全く進展しそうにないんだよな!!大天使月子はどうやってこの男の心を解きほぐしたのだろうか…私の知識にはない空白の一年間をぜひ教えてほしいものだ。

「……私、田中星河って言って、今日西洋占星術科に転入してきたんだけどなんか心細くって!」
「そうだったんですね。どうりで、見たことのないわけです。」
「ははは、はは…」
「………ええと、何か?」

から笑いをする私に対しすごく怪訝そうにする颯斗くんは至極まともな反応と言える。

「……とっ友達になりませんか!!来たばかりで友達も少ないし心細いので!!!!よければ!!!!!ついでにピアノ聞かせてください!!!!あとお名前教えてください!!!」
「……」
「よろしくおねがいします!!!!」

 こうなりゃやけっぱちだ、当たって砕けろだ。と、思い切りよく頭を下げつつ右手を勢いをつけて出すが反応は特にない。さすがにやりすぎたか。
無言もつらいし何より反応が気になり床に向けていた目線だけを少し上げ、顔色をうかがう。するとどうだろう声を殺して彼は笑っていたのである。それはもう破顔という言葉がふさわしいくらいに。

「えっ!?えっと、あの…?」
「っふ、ふふふ、す、すみません…ふふ…」
「いや、笑っていただけるのは結構だけれども」
「田中さん、そんな真剣になられなくてもいいんですよ。お友達、是非ならせてください。」

 くすくすと笑いながら私の差し出した手をやんわりと包み込むその白魚のような手は、まるで女性かのように柔らかで低い声と高い身長とのギャップに心臓が早鐘を打ち始めてしまう。こんなに丁寧に握手したの初めてかもしれない。王子様みたいだあ…なんて呆けていたら、手をすっと離されてしまった。名残惜しい。

「さて、もう遅いですし帰りましょう」
「へっ」
「寮まで送ります」

 帰り支度を始める颯斗くんに慌てに慌てる私。
そういや、全寮制だったわ。と、何故昨日のうちに寮の場所を聞いておかなかったのか、能天気にも宮地くんとの邂逅に喜んでいる場合ではなかった。
まあでも、どうせ教職員用の寮だろうなんとかなりそう。というか、ここに元居た私という解釈であっているのかはわからないが、家が近いからとかいう理由あまり賢い言い訳ではないな。そりゃ私賢くないもんな。仕方がない。
 颯斗くんに促されるまま帰路につく。なんてことない話をするのが楽しくて、ゲームの登場人物だという認識の枠を超えた考えが頭をよぎった。でも、推しキャラと図らずして話すことが出来たら、そりゃドキドキもするよな。すぐに浮上した考えをかき消せば私はフラットでいられるような気がした。





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