友情



まさに地獄の光景とはこの事だろう。

十数名の隊士が無数の弾丸に撃ち抜かれ辺り一面血の海だった。
頭からは脳漿が流れ顔は眼球が飛び出している。赤の中に黄が混じった液体が銃創から流れていた。

「凹助の所に行ってた。十分程の間」

原田は言葉短めに言う。その横の石壁の一部は丸くヘコんでおり、そこを中心に四方八方へ亀裂が走っている。恐らく原田が殴ったのだろう。強く握っている拳からは血が垂れていた。

「…屋根の上の血痕を追っていたら…この上に来たんです。下を見たら…」

山崎は俯きながら声を震わした。唇を食いしばり泣くのを堪えているという感じだ。

「…同一人物か」

土方はそう呟き惨劇を見つめる。

「副長、銃撃音の後、屋根の上を何か持って走っていく姿を何名かの通行人が目撃しております」

隊長服を来た男性が土方に報告する。若い者が多い真選組の中では年配の六番隊隊長井上源二郎だ。

「早すぎてよくは見えなかったようですが、小柄だったと」

そして井上は動かぬ隊士達を見、「ひどいですな」と呟く。

沖田は無言で足下にあった鉛弾を拾った。

先程いらない連想をしたからかどんどんその考えが広まっていく。

人間離れした早さ、傘、身軽で小柄…そしてこの鉛弾。

昨日は中々思い出せなかったが、こう連想すると嫌でも繋がる。
確かによく見た事がある。もう何十回狙われたか。

「沖田」

原田の呼ぶ声が聞こえた。鉛弾を片手に考え込んでいた沖田の顔が弾かれたように上がる。

「それ」

原田は沖田の手元にある鉛弾を指差した。

「見たことあるって言ってたな?思い出したか?」

もうちょっと時間を置いてくれれば直ぐとぼける事もできたのだが、自分自身も頭の中を整理中だった為に数秒答えるのに間を空けてしまった。

「いや…」
「本当か?」

自分の部下が全員殺され気が立っているのだろう。いつもの低音ながらも明るい声色ではなく、殺気が入りドスの利いた声になっている。

「…」
「なぁ?!」

原田が沖田の胸ぐらを掴んで引き寄せた。手に持っていた鉛弾がコツンと音を立て地に落ちる。

「ちょっ…原田!」
「右之」

慌てて山崎と井上が止めに入る。

驚き目を丸くしている沖田を原田は数秒睨み据えていたが顔を歪め胸ぐらから手を離す。

「…っ…すまん」

俯き呟くと背を向け去って行った。
山崎が後を追う。

今まで黙って見ていた土方は目を伏せ溜め息を吐くと唖然としている沖田に近づく。

「総悟」

沖田が振り返ると土方が目をジッと見据えてきた。

「何か隠しているのか?」
「いいえ、何も」

この人がこんな目をする時って絶対何か裏があるんだよな、と思いつつも沖田は否定する。

「攘夷浪士共もたまに銃使ってくる奴いるでしょ?その時に見たんだと思いやすぜィ」

とりあえず適当に嘘を付いてみた。

「…」

黙って沖田の目を見据えていた土方だが「そうか」と呟くと隊士達の死体を片づけている六番隊の隊員の所へ行った。


「…」

落ちた鉛弾を見つめつつ沖田は思う。

大体あのアホはそんな無駄な殺しをする奴ではない。いや、自分とは違い殺す行為すら拒む奴だ。自分の思い違いに決まっている。

それとも戦闘種族の血が目覚めたってやつか?




(…万事屋に行ってみるか)

本当に自分は何であんな奴に必死なんだか。






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