友情



「うわぁ…どうやったら人体にこんな穴が空くんですか?」

山崎は屈み気持ち悪そうに男の腹を見ながら言う。

「あれだ。何とか破を使ったんじゃね?」
「何ですかそれは」

沖田は山崎が持ってきた新しい上着に腕を通す。さすがに真冬の中、シャツとベストだけでは寒い。

「辺りに凶器らしい凶器がないっていう事は犯人が持って行っちゃったようですね」

山崎は辺りをキョロキョロと見渡しながら彷徨いている。
そこへ一番隊の隊員から話を聞いていた土方が煙草を吹かしながら近づいてきた。

「お前が来た時にはもうやられてたんだよな?」
「そうでさァ。悲鳴聞いて駆けつけたらこれですぜィ」
「…これだけ人がいて目撃者なしかよ」

苦々しい顔をして溜め息を吐く。

「あ、でもまだ意識はありやしたぜィ」
「即死じゃなかったのか…犯人について何か言ってたか?」

土方の問いに沖田は「うーん」と考える。

「いや…自分の腑見て錯乱状態でしたからね。それどころでは…」
「そうか」

土方は紫煙を吐き周りを見渡す。すると「副長」と呼ぶ声がした。

「何だ」
「血痕が屋根の上にありました。恐らく凶器から落ちた被害者の血液かと」

山崎が上に向かって指を差す。土方と沖田も上を見上げた。
両隣の家は二階建て。男性を刺した後から沖田が駆けつけるまでの十数秒で上へ逃げたと言うのか。

「物凄い運動神経でさァ」
「忍者かよ」

上を見上げながら二人はぼやく。

「血痕を追えば何か掴めるかもしれませんね。行ってきます」

山崎はそう言うと両隣の家の壁を交互に蹴りながら屋根に向かって上がっていった。

「忍者」
「いやいやいや…」

沖田は上がっていく山崎を指さし土方を見る。土方は呆れた顔で「ないない」と縦にした手を横に振った。

「総悟。一番隊の見回りはこの辺りではなかったと思うが?」
「風で飛ばされて来やした!」
「いっその事宇宙まで飛ばされろよ」

土方は自分に向かって敬礼する沖田に青筋を立てる。

「こんな所まで何しに来たんだ?…ったく…」

顔をしかめ髪をボリボリと掻く土方。そう言われ沖田は顎に手を当て考えた。

「…」

何しに来たんだっけ、ここまで来た理由を思い出す。

そうそう、チャイナを追いかけてきたんだ。人混みの中からあの傘が見えなくなったので諦め…そしたら悲鳴が聞こえて……



『…か…さ…』
『…かさ?』



――傘?



「あぁ?どうした?」

土方は急に黙り込んだ沖田を怪訝な顔で見る。

「…え?あぁ…」

何考えてたんだ、俺は。んなわけないだろ。フッと鼻で笑うと土方を見る。

「いや、ここらで良い呪いグッズが売っている店がありやしてね。今夜どこかの副長さんで試そうかと思いやして」
「あぁー…それ。俺の事だよな。100パー俺の事だよな」

土方が震える拳を上げようとした時、


「副長ォ!!!」


突如頭上から土方を呼ぶ声がした。二人の前に黒いものが降り立つ。

「山崎」

急いできたのか俯いて息を切らしている。
顔を上げ山崎は悲愴な面持ちで土方を見据えた。

「…っ…じゅ、十番隊が…」
「なんだ?」

山崎の尋常ではない伝え方に焦燥を感じながらも聞き返す。

「…十番隊の隊員が全員殺られました…例の銃殺です」
「何っ?!」

土方は驚愕し目を見開く。ひとつの隊に隊員は10人以上は居る。みんな剣の腕にはそれなりの自信を持つ者ばかりだ。それが全滅したというのか。

「え?何で?原田は?」
「とりあえず現場に行くぞ!どこだ?!」

土方は山崎に向かって声を張り上げながら聞く。隣にいる沖田も信じられないと言った表情だ。

「お、大江戸病院の近く、昨日の事件現場からさほど離れていません」
「分かった」

そう言うとパトカーへ直行した。






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