友情



現場の処理が終わる前に抜け出し万事屋へ足を運ぶ。


原田怒ってたな、無理もない。自分が逆の立場だったら胸ぐらを掴む前に抜刀している。早く思い違いだという事をはっきりさせて捜査に協力しよう。五十嵐親子の件の借りもあるし。



しかし、そんな沖田の思いを知るはずもない万事屋一家は留守だった。

(あのヤロー…)

徒歩十分の時間返せ。いつも家でぐーたらしているくせに何でこんな時に限って留守なんだ。

目を据わらせ万事屋銀ちゃんの玄関を見据える。

少し待ってみようか、沖田は玄関に背を向けると目の前の手すりに頬肘をつき下を行き交う人々を見つめた。










「隊長!こんだけ見つけたネ!」
「よし、よくやった。これは次でかいヤツが来るパターンなんだ。入るまでは何とか事を保たすんだ。分かったな?」
「ラジャーアル!」
「引き続き軍資金を集めてくれ」
「イエッサー!!」

前を見据える銀髪に向かって桃色が敬礼すると床を這いつくばり何か探し始めた。

周りはスピーカーから発する人の声や電子音、固いもの同士がぶつかり合う音、たまに人の歓声や罵声が聞こえる。
一列に並んだカラフルに光る台。その前に座る人々は真剣な面付きで片手を前に出し台に付いている丸い物を持っていた。
一列ずつ背中合わせで座る人々の間には所々に箱いっぱい小さくて丸い銀色の玉が入っている。



簡単に言えばここはパチンコ店だ。



「何でこう良い時に金がなくなるんだ!あの時…二箱出た時点で止めときゃこんな思いせずに済んだのによ…!」

パチンコ常連者によくある思いを抱きながら銀髪の男は焦燥し歯を食いしばりながら徐々に無くなっていく銀色の玉を見つめる。

そこへ肌白い手が出てきてジャラジャラと玉を入れた。

「まだでありますアルカ?隊長。さすがに周りのゴツいおっさん達も感づいてきたネ」
「…くっ!…来る筈なんだ…!!もう…………お?」

銀髪の死んだ魚のような目が見開く。目の前にある台の周りは虹色に輝き派手な演出が液晶画面に映る。

「お?おぉ?!」

画面に額が付かんばかりに銀髪が顔を近づける。桃色の少女も食い入るように台を見つめた。

画面の中にいる水着を着たお姉さんが「三」の数字を持ってきた。九つの数字が並び真ん中にある三と三の間にそれを置くとブイサインを出す。

派手なBGMと共に「大当たりー」という文字が画面から飛び出した。

「き、き、き、きたぁぁぁー!!!!」

その場を立ち上がりガッツポーズをする銀髪。

「き、きたでありますアルカ?!隊長!」
「あぁ!このパターンは一度ハマると10連チャンはくだらねぇ!!今日の晩飯期待しとけよ!!神楽!!!」
「いやっほぅ!!さすが銀ちゃんネ!!」

銀時は生き生きとした目で再び座り直す。神楽もピョンピョン跳びながら大喜びした。








「帰って来ねぇし」

万事屋の前にいる沖田はボソッと呟く。

一時間は待ったか。自分にしちゃあよく待った方だ。自分で自分を褒めたい。

(出直すかな)

もうちょっと早く決断すれば良かった、と後悔しながら階段を降りる。



――プルルル…



ポケットにある携帯電話が鳴る。

もしかして土方か。黙って抜けてきたのでご立腹なのかもしれない、そう思いつつ携帯電話を取り出し開く。

液晶画面に「藤堂凹助」という文字が映っていた。クリスマスはもちろんの事、年越しまで病院で凄しまだ入院中。沖田にとって五十嵐親子の件で一番世話になった男である…と、同時に一番哀れでもあったが。


「もしもし」

沖田は通話ボタンを押し電話に出た。






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