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こう堂々とサボり宣言をして行く上司はそういないのではないか、去っていく真選組局長の後ろ姿を呆然と見ていた三人だったが、ふと永倉が友田の方を向く。
「友田、いつまでもサボってないで見回り続けろ」
「ハッ!申し訳御座いません!」
友田は永倉に向かって敬礼をし去って行った。
「近藤さん、あぁ見えて博学なんだねィ。剣振るうのに心理学なんてどうでもいいでさァ」
「沖田」
自分もそろそろ真面目に見回ろうかと歩き出した沖田を後ろから永倉が呼び止める。
「あ?」
もしかして決闘の続きかと振り返った。しかし永倉は真剣な目で沖田を見据えている。
「さっきのエロ本、良い物ついてたぞ」
沖田は不思議そうに首を傾げた。
「SMグッズ?」
「超小型爆弾」
「!」
思いもしなかった付属品に驚愕し一瞬目を見開いた沖田だったが、すぐいつもの表情に戻る。
「遠隔操作が可能な奴だ。裏表紙に付いてたぜ」
「…あの本は身長160センチに満たない人向けだったんだねィ」
「斬るぞ?」
永倉は眉をピクリと上げるが、すぐ気を取り直そうと溜め息をつく。
「あいつ最近挙動がおかしくてな。まさかとは思うが…」
「土方のヤローに言ったのかィ?」
困ったように頭を掻く永倉に沖田が問う。
「いや、確証つかんでなかったし」
「さっきのでほぼ決まりじゃね?」
「だな」
永倉は肩を竦め首を振る。
「久々に気が合う奴が来たと思ったんだけどねィ」
害がある者は斬る、直に副長からそんな命令が下されるだろう。
「短いS仲間だったでさァ」
沖田はそう呟いた。
永倉と別れた後、フラフラと市中を見回る。
一番隊の隊員とは先に行っててくれと言ったまま放置だ。そろそろ合流するかと思い連絡をする為、携帯電話を取り出す。
ボタンを押そうとした時、人混みの中で番傘を差す鮮やかな桃色の髪でチャイナ服を着た少女が目に入った。
「お」
パタンと携帯電話を閉じポケットにしまってニヤリと笑う。雨でもないのに傘を差すチャイナ娘といえば一人しかいない。
沖田は昨日の再戦を申し込もうかと近づいた。
…が、相手は気付いていないのか沖田とは反対の方向へ行ってしまう。
(ムッ…)
バズーカでも撃ち込んでやろうかと思ったが人が多い。銃器は諦めて人混みの中を早足で追いかけるが見失ってしまった。
「あ…」
足が止まり思わず声が出る。
というか、なぜ自分はあんな奴の為にこんな必死になってるんだ?
目の前を行き交う江戸の人々を見つめながら疑問に思う。
「…アホらし」
そう呟き亜麻色の髪を掻きながら溜め息を吐くと来た道を戻ろうとした。
――その刹那、
「ギャアァァァ!!!!!」
耳をつんざくような悲鳴が白昼の市中に響きわたる。
「!」
沖田は目を見開くと人混みを乱暴に押しのけ悲鳴がした方へ走る。
「…!」
建物と建物の隙間、大人が一人やっと通れるような所で腹から血を流して倒れている男性がいた。
「おい!救急車呼べ!」
近くにいた野次馬の一人にそう叫ぶと男性に近づく。
腹に大きな穴が空いていた。脂汗を大量にかいた男性は目を大きく見開き必死に中から飛び出した内臓を入れようとしている。
「あ゛ぁあ゛ぎゃ…」
「落ち着けィ」
無理な話か、沖田はそう思うと上着を脱ぎ腹を縛る。内臓がこぼれるぐらいの大穴にこんなの応急処置にもならないが気休めぐらいにはなるか。
「っ…ぁ…か…」
「!…何でィ」
男性が何か伝えようとしているのか血塗れの手を震えながら沖田に向ける。
「…か…さ…」
「…かさ?」
沖田が聞き直すと男性の手は力を失いパタリと落ちる。
ショック死。
男性の瞳孔が開いたまま絶命したのを見、目を伏せフゥと短く息を吐くと携帯電話を取り出した。
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