友情



公園では子供達がブランコや砂場で遊んでいる。そんな中、青いビニールシートで覆われている遊具があった。昨日沖田と神楽が半壊させた遊具だろう。


「…」

沖田は桃色の頭を探す…が、見当たらない。

「チッ!」

別に待ち合わせなんてしていないのでいなくて当たり前なのだが自然と舌打ちが出る。

勝ち逃げなんてしねぇだろうなぁ、そんな焦燥を感じ足下にあった小石を蹴った。

また昼過ぎに来てみようか、酸っぱい菓子を買いに駄菓子屋へ来るかもしれない。さすがに万事屋へ殴り込みに行くのはどうかと思うし…そうしよう。

転がった小石をまた蹴りながら歩いていると一人の隊士が沖田の姿を見つけ「あ」と声を上げる。

「沖田隊長ー」

沖田は名を呼ばれ顔を上げる。声がした方を見ると男が手を振り早足で近づいてきた。

「友田、お前もサボりか?」
「い、いや…違いますけどね。さすがに入ってきたばかりの自分がサボるのはどうかと…」

沖田に友田と呼ばれた青年は口に手を当て「沖田隊長は本当に面白い方だなぁ」と苦笑する。

「この前良い本手に入れたんですよ。その名も‘とりぷるS’」

そう言い懐から青少年によろしくなさそうな表紙の本を取り出す。

「ほぉ。そんなエロ本買っても奥さんは怒らないんだねィ」
「うちの者はそういうの無頓着でして…」

友田は照れつつ髪を掻いた。そしてその本を沖田に渡そうと差し出した時、後頭部に固いものがコツンと当たる。

「俺の隊でサボるとは良い度胸だ。友田」

肩を一瞬震わせ振り返ると目前に鐺が目に入る。青筋を立て片眉を上げた小柄な青年が鞘に入った刀を上げ友田を見上げていた。

「あぁ!永倉隊長!」
「なんだ?それ?」

永倉は焦る友田の手にある本を覗き込む。

「あ、いや、その…」

さっ、と懐に入れ両手を前に出す。沖田はそんな友田の横からひょいと顔を出すと永倉の頭をポンポンと叩いた。

「身長160センチに満たない人は見ちゃあいけない本だぜィ」
「な?!165はあるわァ!!」
「止めとけィ。それが嘘だってみんな気付いてっから」

あっけらかんと言う沖田に向かって目が据わったまま青筋を立て永倉は抜刀する。

「真選組一の剣の使い手がいったい誰なのかここで決着つけようか」
「一位と二位の差はでかいぜィ?」

沖田も柄に手を掛ける。

「あれ?ちょっと?お二人さん?」

友田は今にも決闘が始まりそうな隊長二人の顔を交互に見る。


「おぉ!何してるんだ?」

そんな時、ピリピリムードに場違いな明るい声が聞こえてきた。

「局長!」

友田は助かったと言わんばかりに声の主を見る。

「ん?喧嘩?公園は庶民の憩いの場だ。剣を振り回す所じゃない」

近藤は鯉口を切ろうとしている沖田とすでに抜刀している永倉をたしなめる。

「はぁい」
「すみません」

沖田は刀から手を離し、永倉は刀を納める。

近藤は戦闘体制を解いた二人を見て「よし!」と頷く。

「また総悟が背の事をからかったんだろ。…ったく、昔っから好きなものを苛めたくなるんだよなぁ、総悟は」
「は?」

腕を組み溜め息をつく近藤を見て沖田は目を丸くした。

「トシとか」
「誰があんなマヨニコチンを」
「心理学であるんだよ」

近藤は嫌そうな顔をする沖田にガハハと豪快に笑う。

「好きなのにうまく関係を築けない時、人の心は不安定になる。そんな時‘防衛機制’という心を落ち着かせようという反応が起こるんだ。そして心の安定を得ようと思っていることとは反対の行動を取る事‘反動形成’が出る。総悟はこの典型だな」

得意げに話す近藤に「へぇ」と永倉は目を丸くする。

「よくご存じですね」
「あぁ!いつもお妙さんが俺からの愛を拒み続けるのはこれのせいだと思っているからな!」

と言った後、ボソッと「子供の心理なんだが」と呟いたのを永倉は聞き逃さなかった。

「…という事で俺はお妙さんのところへ行ってくる」

手を上げ「じゃあな」と言い去っていった。






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