友情

44

濃い血の臭いが鼻をつく。神楽は驚愕し目を見開いて前を見据えた。


「…サド?」

目の前の背から爪が飛び出し血が滴り落ちる。その爪が抜かれると沖田は血を吐き片膝をついた。

「お、お前バカかっ?!何で庇ったアルカ!!夜兎が怪我したってすぐ塞がるネ!!」
「…あぁ…そうか。そうだったねィ…ほんと、スランプでさァ」

沖田は俯いたまま腹を押さえ自嘲した笑みを浮かべる。

床に伏した老人が腕を伸ばしたままこちらを見てニヤリと笑う。神楽はギリッと歯を食いしばり睨み据えた。

「こん…のっ…クソジジィ…!!」

銃口を老人に向ける。その傘を持つ手を沖田が掴んだ。

「!」
「…殺さないんじゃなかったのかィ?」

苦しそうに顔を歪め神楽を見上げる。

「だって…お前…!!」
「庶民のヒーロー舐めてもらっちゃあ…困りまさァ」

立ち上がって抜刀し、老人に向かって走り出した。伸びた腕が沖田を襲う。それを倒れ込むようにして避けると、片手を床につき剣尖を後ろまで振って一気に老人の顔に目掛けて刀身を叩きつけた。

頭が弾け血や脳漿が奔騰し、眼球が飛び出す。沖田は叩きつけた勢いのまま床に赤い筋を作りながら滑り倒れ込んだ。そこへ神楽が駆け寄ってくる。

「サドッ!無事か?!」
「おぉー…後五分寝かせてくれィ…」

倒れ込んだまま手を上げひらひらと振る沖田に側で屈んでいた神楽はホッと安堵の溜め息を吐くと上がっている手を叩いた。

「寝起きみたいな乗りで言うナ、バカ」
「今度こそ終わったかィ?」
「もうすでに原型を留めていないアル」

神楽は気持ち悪そうに近くの人の残骸を見た。沖田は仰向けに転がり天井を見上げる。


「…やぁっと終わった…」
「っう?!」

沖田が呟いた途端、側に居た神楽が笛を吹いたような高い声を出す。

「?」

怪訝な顔をし神楽を見ると、黒い煙を放ちながら目を大きく見開き下を見据えていた。傘の持つ手に力が入る。


嫌な予感がし沖田も刀の柄を握りしめた。




――ガキィィーン!!


傘と刀がぶつかった。神楽が目を赤く光らせ傘を振り下ろしてきたのだ。しかし沖田は咄嗟に刀を横にして受け止める。

「…終わってないのかよっ…!!」

歯を食いしばり刀を握る両腕に力をこめる。腹に力を入れると胸から何かがこみ上げてきた。

「…ガハッ!」

血を吐く。気管に入ることを防ぐ為に力を振り絞って傘を凌ぎ、横へ転がってうつ伏せになった。

「…ゲホッ!ゴホッ…」

床に向かって血を吐いた。上体を起こすと眩暈がし頭を押さえる。

「…ったく…事をややこしくするのが趣味なのかィ?…アイツは」

片膝をつき肩で息をしながら前髪を掴み前を見据えた。

どうしようか、きっと石に取り憑かれたあの感じと同じ事が起こっているのだろう。
沖田は土方や銀時が元に戻したやり方を思い出してみた。


――そうか。何も難しくはない。自分達らしいやり方で戻せば良いんだ。


神楽が傘を構え沖田に向かって突きを繰り出してきた。沖田は懐に手を入れ何かを取り出す。刀を置き繰り出してきた傘を掴んで一気に引き寄せた。

神楽の体が前へつんのめる。


「はい、あーん」


沖田は懐から取り出した物を目前まできた神楽の口の中に入れた。

神楽の動きが止まり両膝をつく。
その透きをつき沖田は神楽の両肩を強く押し仰向けに倒すと刀を取ってその喉元へ切先を向けた。


「俺の勝ちでィ」

ニヤリと笑い神楽を見た。






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