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左から涎を垂らしながら噛みつこうとする獣をひと蹴りすると次は右から触手が伸びてきた。
「気味悪ぃペットばっか飼ってるねィ」
触手を斬りながら沖田は呟く。神楽は傘を一振りし人型のえいりあんの頭を叩き割る。頭蓋骨が割れる音とともに脳漿が噴き出し床に倒れた。
「まず一匹ネ!」
神楽が沖田を見てニヤリと笑う。その様子を見た沖田はムッと青筋を立て目の前の獣を目掛けて体を捻りつつ剣尖で弧を描く。獣の首は飛び地面にゴトンと落ちた。首を失った体は血を噴き出しながら暴れまわり壁に激突して絶命する。
「そう何度も負けられねぇでさァ!」
言い終わると同時に刀を薙ぎ払う。別のえいりあんの腕が宙を舞った。
「あのジジィ倒したら二万点な」
「マジでか?!」
沖田の言葉に神楽が目を輝かせた。老人は少し離れたところで戦いを見ている。
「二万点もらうアル」
神楽は銃口を老人に合わせた。しかし弾を発射せずに黙って構えたまま動かない。
「…」
「オイ、高得点に目が眩んで後ろがら空きだぜィ」
沖田は神楽の後ろにまで来ていたえいりあんを蹴飛ばし斬りつける。
「…無理アル。えいりあんでもない者は殺れないネ」
「!」
傘を下ろした神楽を見て沖田は目を丸くした。
「ジジィは人殺してんのに?」
「殺れないもんは殺れないアル」
そう言い放つと向きを変え、えいりあんに銃を乱射した。沖田は「ふーん」と呟く。
気持ちはサッパリ分からないが、それが彼女の決めた武士道(ルール)のようなものなのだろう。
「じゃあ仕方ねぇ。二万点は無しにしてやりまさァ」
床を蹴り走りながら左前に居たえいりあんに向かって下から斬り上げる。その勢いのまま刀身を右に薙ぎ払った。右に居たえいりあんの胸が剣尖にえぐられ緑の血飛沫が舞う。
そして老人の目の前で沖田は刀を振り上げ宙を飛ぶ。
その刹那、老人の目が赤く光り沖田に向けて尖った爪と共に腕を長く伸ばした。
「?!」
振り上げていた刀を咄嗟に下に持って行き腕を柄の頭で殴って軌道を変える。脇腹を爪が掠った。
「…潜在能力を引き出すどころじゃねーし」
腕が伸びるなんて明らかに人の動きではないだろ、沖田は着地し、刀を横に構える。
神楽も見ていたのかあんぐりと口を開き驚いていた。
老人はニヤリと笑い腕を元に戻す。
「便利そうじゃろ」
「そうだねィ。でも老後には必要なくね?」
再び腕を伸ばし沖田を襲った。それを身を低くし横へ飛び避ける。
「あの石を改悪しちまったようだねィ」
「何?」
老人の眉がぴくりと上がる。
「おめぇ、戦闘経験なんてねぇだろィ。自分の意志は持つべきではなかったねィ」
沖田は老人の横に回り刀を振る。老人は振り向き腕を沖田の方へ持って行き防ごうとした。が、沖田は刀身を下ろさずに腰を落として素早く老人の後ろに回り込んだ。
「!」
「完璧に狂っていた方がよっぽど強いぜィ」
がら空きとなっている背に刀を突き刺した。
「がはっ!!」
老人の体が一瞬震えが血を吐く。
「刀の使い方を知らねェ猿が振り回して遊んでいるようなもんでィ。やっぱ何でも場慣れが大切でさァ」
そのまま剣尖を一気に上げた。血が噴き出し老人の体が床に倒れる。胴が縦に割れ臓腑が流れ出た。
「こっちも終わったネ……ゲッ!」
えいりあんを片付けた神楽が老人の割れた体を見て顔を歪める。
「気持ち悪っ…!!幼気な少女にこんなもん見せるんじゃないネ!!」
「おめぇが勝手に見たんだろィ。それに幼気でもなんでもねェ。あえて言うなら痛い気かねィ」
「何ィィ??!!」
神楽が青筋を立て傘の銃口を沖田に向ける。刀を納めた沖田はうるさそうに耳に指を入れ、もう片方の手で銃口を押しのけた。
「さっさと帰るぜィ。絶対土方のヤローがご立腹でさァ」
「あ!銀ちゃんに内緒で出てきたんだったアル!きっと心配してるネ!」
目を大きく開き傘を下ろすと神楽は沖田に背を向ける。沖田は亜麻色の髪を掻きフゥと溜め息を吐いた。
「…!」
床に伏している老人の腕が動いたような気がした。こんな姿になって動ける筈はないか、と再び目線を前に戻す。
――いや、待てよ。
ふと沖田は一ヶ月前に近藤に重傷を負わせた化け猫を思い出した。首が飛び胴体が真っ二つになってもなお襲ってきたあの化け物を。
その刹那、絶命したと思われた老人の腕が伸び階段の方へ向かって歩いていた神楽の背を目掛けて襲いかかる。
「チャイナァァ!!!!」
沖田が叫ぶが同時に床を蹴った。
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