友情

42

「良い趣味してやがるぜィ」

顔をしかめながら沖田は辺りを見渡した。

地下二階にはえいりあんの剥製やホルマリン漬け、内臓のようなものが詰められている瓶などが並べられていた。

「…これ人間じゃないアルカ?」
「えー…」

勘弁しろよ、と思いながらも沖田は神楽が指差す方を見て驚き目が見開く。
そこには容器の中に数人の人が瞳孔を開けたまま折り重なって入っていた。

「…何だこれ」

思わず沖田は呟く。神楽は口元に手をやり「気分が悪くなってきたネ」と言いながらその容器から背を向けた。

「吐くのだけは止めてくれィ」

と、その背に言いながら容器の中をよく見ると眼球がないものや腹が裂かれ腑がないものがあった。

「犯罪の臭いしかしねぇところでさァ」

沖田は顔を歪め前髪を掻き上げながら屈んでいた上体を起こす。内臓やら眼球を取り出して売り捌き、その空となった亡骸をゴミのようにこの容器へ詰め込んだのだろう。

「捕まえろヨ、ケーサツ」
「捕まえる相手が見当たらないんだがねィ」

これ以上地下に続く階段はないようだ。沖田は溜め息を吐く。

「うわぁ…ここまで来て骨折り損アルカ?」
「大体、行き当たりばったりで来たんでィ。そううまい事居るわけねぇだろィ」
「私は上に戻るアル。こんなとこに居たら昨日のご飯全て出てしまうネ」

顔が青ざめた神楽は階段へと歩き出した。

「ほいほい」

あの雪崩のような吐瀉物を出されるのは勘弁して頂きたい、他の物を見ていた沖田は神楽に向かって手を振る。


「…?」

ふと沖田が眉をひそめる。神楽が通り過ぎた後、近くにあった瓶の中にいる人型のえいりあんの目が光ったように見えた。

瓶の表面に亀裂が入っていく。


「チャイナァ!!!後ろ!!!」
「え」

瓶が割れえいりあんが飛び出した。沖田が床を蹴る。沖田の叫び声で振り向いた神楽の目前に腕を振り上げたえいりあんの姿があった。

「!!」

咄嗟に傘で防ごうとするが間に合わず顔を殴られ吹っ飛び壁に叩きつけられた。
沖田が刀を鞘から抜き放ちえいりあんの背に向かって一太刀を浴びせる。緑色の液体が飛散し、えいりあんは「グオォォ」と呻き声を上げた。

振り向いたところを喉に目掛けてひと突きしそのまま横へ薙ぎ払う。えいりあんの首が傾き緑の液体を噴かせながら床に叩きつけられるようにして倒れた。

「あぅー…フラフラするネ」

壁にもたれながら立ち上がった神楽は頭に手を当て顔をしかめる。

「今なら一昨日の分のご飯も出せるネ」
「出すな」

沖田は神楽が辺りを吐瀉物の海と化させるのをすかさず制止し、斬ったえいりあんを見下してその死骸を足でつついた。

「何で突然動き出したんでィ」

他のえいりあんも動くのだろうか、と思い周りを見渡した――その刹那、


「生きておったのか」
「!」

一ヶ月ぶりの老人の声が聞こえてきた。沖田が声のした方を向くと階段の上に立っている陽紀の父の姿が目に入る。

「あ!てめぇあのクソジジィ!!」

神楽が叫びながら老人を指差す。老人は顔をしかめながら階段を下り始めた。

「お前さんの身内は不思議じゃの。お前の姿をした者でも何の躊躇無く斬りおる。少しは戸惑ってくれると思っていたのだが」

沖田の方を見ながら老人は言った。何のことやら、と沖田は怪訝な顔をする。

「一ヶ月の研究が台無しじゃ。とことんお前達は邪魔してくれるのぉ」

怒りが隠った低い声で沖田を睨みつける。神楽が横でボソッと「私は無視アルカ?」と呟いた。

「言ってる事がよく分からねぇが…無断で人の姿を使って犯罪を犯すのは気に食わねぇなぁ。貸し出し料は高くつくぜィ」

沖田は刀の切尖を老人に向ける。

「私もアル!!胸くそ悪い殺しばっかさせやがって許さないネ!!今度こそボコボコにしてやるヨ!!」

神楽は傘を肩に担ぎ老人に向かって中指を立てた。老人はそんな二人を見て鼻で笑うと、「これを使うか」と言い懐から液体の入った瓶を取り出した。

「何アルカ。また泥人形アルカ?」

神楽は怪訝な顔をする。
老人はその瓶の蓋を開けると自分の口の中に入れた。

「潜在能力を引き出す石覚えとるか?あれを液体化した奴じゃよ。自分の意志をそのまま持つことができるようにした」

老人の体が黒くなり目が赤く光る。

「儂がもっと若ければ良かったのじゃが…年は取りたくないものじゃな」

老人が指を鳴らすと同時に周りの瓶やカプセルが割れる音がした。沖田は嫌な予感がし刀を構えたまま周りを見渡す。


「やっぱり上に行ってた方が良かったアル」
「そんな事今更言われてもねェ」

中から出てきたえいりあん達が二人に向かって襲いかかってきた。






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