友情

39

「お、外だ」

原田が目を丸くしながら辺りを見渡す。ハゲ頭と顔の表面が血で赤黒い。

「まさかまたここを使うとは…」

山崎は原田に支えてもらいつつ階段から上がりきった。

人造人間を倒した後、一ヶ月前に五十嵐から教えてもらった脱出口を使い二人は外に出た。日が大分傾いている。もう夕方のようだ。

「はぁ…休憩」
「原田も怪我してるのに…ごめんな」

溜め息を吐きドカッと壁にもたれて座る原田に山崎は申し訳なさそうに見る。

「良いって事よ。それよりこっからどうすんの?」
「うーん…」

前は幕府関係者の五十嵐が車を用意してくれたが、今回はそんなものはない。山崎も座りつつどうしようか考えた。

「俺が先に塀登るから」

原田が高い塀に向かって指を差しながら言い掛けたその時、

「そんな状態で登るのキツくない?」
「うおっ?!」

突如建物の陰から眼鏡をかけ長い髪を後ろで一つにまとめた男が出てきた。
原田が吃驚し声を上げ男を見上げる。

「斉藤さん!」

山崎が驚愕しその男に向かって指を差し声を上げる。手を挙げ斉藤が返事をした。

「お疲れさん」
「へ?終?何?その格好」
「研究員一日体験中」

原田が目を丸くして斉藤の姿を上から下まで見た。そんな原田に斉藤は身分証明書を見せる。もちろん偽造だが。

「表の状況は至って普通。逃げるのなら今の内だよ」
「は、はい…というか何で?」

潜入してから誰とも連絡していないし、来てもいない。原田もそうだが何で斉藤までもが此処にいるかが不明だ。実は自分以外にも土方は潜入捜査を命じていたのだろうか、山崎は頭の中で様々な思考を巡らせた。

「いやぁ…何となく右之は研究所まで追いかけて行ってしまったんじゃないかなぁ…て思ってさ」
「追いかけて?」

山崎がジロリと原田を見る。原田はサッと目を反らした。

「車用意してあるからその中で」

斉藤は二人を見、苦笑しながら停めてある車を指差した。




「それで研究所まで追いかけて来たの?!せめて敷地内に入る前に一度考えろよ!!」

車内で話を聞いた山崎が原田に怒鳴る。

「あの時は無我夢中で…結果ジジィは逃したがアイツは潰せたから良いじゃねーか」
「結果オーライじゃなぁーい!!!」

原田が困ったように顔をしかめる。珍しく山崎が人に向かって怒鳴り散らす様を見て、斉藤が苦笑した。

「二人ともひどい怪我の割りには元気そうで良かったよ」
「あ、そういえば…」

原田の胸ぐらを掴んでいた山崎が何か思い出したかのように運転席を見た。

「沖田さんが死んだとあの老人が言っていたのですが…本当ですか?」
「あ…あぁー…成功したんだ」

斉藤の言葉に二人は「?」となる。

「ある意味副長が殺したようなもんだね」
「えーと…無事何ですね?」

台詞はともかく斉藤の顔は笑っているので沖田が死んだというのは嘘の情報のようだ。

「アイツ…最初っからあの嬢ちゃんじゃないって言い張っていたな…謝らなきゃなぁ」

原田は溜め息をつき前方を見据えた。斉藤は「そうだね」と言うと、

「沖田も相当怒ってたもんね。さっきの山崎みたい」
「え?」
「んー…友愛?」
「えーと…」

この人が言う台詞はたまに抽象的すぎるんだ、山崎は頭を抱える。

「屯所にも居るんだよねぇ…。覚悟していた方が良いよ、右之」
「へ?」
「その前に病院だけどね」








もうすっかり辺りは暗くなった。三人が屯所に着いた途端、事前に連絡を受けた永倉が「右之ォォ!!!」という叫び声と共に原田に目掛けて跳び蹴りをかました。「ぐはっ!」と原田は床に倒れる。

「こんっのバカッ!!人がどんだけ心配してたと思ってんだ!!」
「す、すみません」

包帯を巻いたハゲ頭の上から小柄な青年が怒鳴る。同じく駆け寄ってきた杉原が苦笑した。

「あのぉ…永倉君?この人一応怪我人」
「しかもこんな傷なんぞもらってきやがって!!」
「その傷に思い切り乗ってるよー」

倒れた原田の上を馬乗りになって胸ぐらを掴む永倉に斉藤が突っ込みながら通り過ぎる。

「よ、お疲れさん!朝からいないと思ってたらお迎えだったのか」
「凹助の思い出の地にね」

斉藤の言葉に藤堂は顔をひきつらせ「そ、そうですか」と呟いた。

「副長は?報告に行かないと」
「お、ザキもお疲れー。災難だったな」

藤堂は松葉杖をつきながら辺りを見渡す山崎の頭をポンポンと叩く。

「副長なら局長と一緒に外出中」
「うっ、急ぎでお願いしたかったのに…あ!もしかして本庁にですか?!」

証拠提出が間に合わなかったか、山崎が顔を歪める。

「いや…問題児の補導に…」


困ったような顔をする藤堂に山崎と斉藤は「ん?」と首を傾げた。






戻る

- ナノ -