友情

37

建物の陰から桃色頭とペンギンの頭が出てきた。キョロキョロと辺りを見渡すと向かい側の建物の陰へと駆け出す。すぐその後を天人達が銃器を持って走り去って行った。

「…だからややこしくなるって言ったんでィ」

沖田がジロリと神楽を睨む。

二人はあれから一ヶ月前に潜入した幕府の敷地に来たが、今回は検問を強行突破した為に警備の天人に追われる羽目となった。

「ジャンケンに負けたお前が悪いアル!いつ私に勝つアルカ?」

検問に行く前にジャンケンをして勝った方の案で行くと二人で決めたところ神楽が勝った。その神楽が出した案は強行突破。もちろん負けた沖田は反対するがすでに神楽は傘を構え走り出していた後だった。

「頭の良さは勝ってる」
「私だって頭の中の密度はお前に勝ってるネ!」
「食べ物で詰まってんだろィ」
「何をォォ?!」

建物の陰で取っ組み合いの喧嘩になる。警備の天人達の足音が聞こえ二人同時に喧嘩を止めた。

「…はぁ、お腹空いたアル。顔があんパンでできているヒーロー飛んでないアルカ?」
「止めとけィ。アイツの顔は美味いかもしれねぇが不衛生だぜィ」

二人は建物を背にし横歩きで進む。

「なぁ、どこかの建物に入って腹ごしらえしないアルカ?」
「これ以上事をややこしくしないでくれィ」
「お前糖の神様ダロ?何か出すヨロシ」
「ほれ」

沖田は神楽の手に飴を握らせた。

「お!」

飴を見た途端パッと顔が明るくなり包み紙を開け中の飴玉を口に含んだ。

「やればできるアルネ」
「行くぞ!」

前の通りに誰も居なくなったのを見計らってまた別の建物の陰まで走る。

「前の場所なんて覚えてるアルカ?」
「何となく」

とりあえず一ヶ月前に来た時に陽紀の父が出てきた倉庫に行こうと決めた二人はそこを目指していた。ただ、あの時は辺りが暗かったのではっきりとした場所は分からないが。

「…確かお前の偽物もいるんだよナ?」
「そうだけど?」

再び建物の陰に隠れた時、神楽が沖田に話しかけてきた。

「不安じゃないアルカ?」
「えー…?もう俺、死んだって事になってるし、犯人…ジジィの目的は果たされたから出ては来ないだろうって土方が言ってたぜィ」
「でも出てくるかもしれないネ。ゴリラとかトッシー襲うかもしれないアル」

沖田は目を丸くして神楽を見る。その神楽の目は真剣だった。

「…まぁ…まず偽物ってすぐ分かるだろうぜィ。それだけ長い間同じ釜の飯食ってきてっからな。それに殺られる筈もねェ。本物とは違いあっちの剣の腕は不良品らしいからねィ」

幕府の官僚を斬った切り口は汚いものだったらしいし、完璧には造られてはいないのだろう。

「…私は不安アル」

神楽がボソッと呟く。沖田は「ん?」と首を傾げた。

「私の姿で胸糞悪い殺しをさせているなんて…何だか夜兎の自分を見てるみたいネ」

神楽は俯き小さな声で言う。
沖田はパチパチと瞬きをした。夜兎の自分とはどういう事だろうか。

「トッシーから話を聞いた時からは不安でお腹いっぱいだったアル。もしかして私の知らない時に夜兎の本能が目覚めて勝手に殺しをしているんじゃないかと思ったネ」
「…」

腹じゃなくて胸な、と思ったが突っ込む雰囲気でもないので黙っておいた。

なるほど。夜兎の自分とは本能に目覚めた自分という事か。

きっと本人しか分からない事だろうからどう声を掛けていいか分からない。沖田は困ったように頬を掻く。


「……チャイナ?」

神楽が黙ったまま俯いている。

もしかして泣いているとか?

沖田は少し焦りながら神楽の顔を覗き込んだ。


「か…」
「え?」
「辛いアルゥーー!!!!」
「わぁ!!」

突如神楽は叫びながら顔を上げた。上体を低くしていた沖田が弾かれたように身を起こし後ずさる。

「お前あの飴何アルカ?!甘かったのが突然辛くなったネ!!味のジェットコースターネ!!」
「いや、例えが意味分かんねぇが、あれだ。イチゴ味の中にタバスコ入ってる特注品だぜィ。滅多に食えねぇ」

涙目の神楽はペッと口の中にあった飴を吐き出すと沖田に向かって傘を構える。

「ぶち殺すアル!!」
「夜兎の本能が目覚めた」
「黙るヨロシ!!」

青筋を立てた神楽がペンギンに向かって傘を振り上げようとしたその時、

「オイ!!居たぞ!!」

警備の天人の一人が二人を指さして叫んだ。

「おめぇがバカでかい声出すから見つかっちまっただろィ!!」
「お前のせいダロ!!」

怒鳴り散らしながら二人は警備の天人達から逃げて行った。






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