友情

36

「あんのバカどこ行きやがったァァァ!!!!」

白昼の屯所に土方の怒鳴り声が響き渡る。地響きを鳴らし縁側を歩く表情はまさに鬼。辺りの隊士達はその姿を見た途端部屋へ逃げ込む程だった。

そこへ竹刀を持ちトントンと肩を叩きながらバンダナ頭が近寄ってきた。

「副長。どこの大将を殺りに行くんですか?」

今すぐにでも誰かを瞬殺しそうな顔をしている土方に藤堂は顔をひきつらせながら問う。

「総悟知らねぇか?!」
「沖田?自室に居るんじゃないんですか?」
「いないから聞いている」

ギロリと睨まれ藤堂は生命の危機を感じたか後退りをしブンブンと首を横に振った。

「い、いや…見てませんけど」
「屯所中探してんのに居やがらねぇ…まさか外出したんじゃねぇだろうな」
「は?!見張りつけてたんじゃ」

幕府の者に見られたらどうするんだ、藤堂は眉を上げ顔をしかめる。

「あぁ、一番隊隊員に」
「今日は朝から沖田隊長に肩抱かれて耳元で囁かれたっスよ!!幸せっス!!」

一番隊隊員神山が無駄に大きな声で一人の隊士と話しながら近づいてきた。

「…」
「…」
「あ!副長!!藤堂隊長!!お疲れ様っス!!」
「お疲れ様です」

二人に向かって敬礼をする神山と一礼をする隊士。

「神山。朝、総悟に何て言われた?」

土方が通り過ぎようとする神山の肩を掴む。

「あっ!!副長気になるっスか?!実はっスね!!副長に言われた通り沖田隊長の部屋の前に居ましたらいきなり肩を抱かれましてね!!耳元で一緒に外に出ないかって!!」
「ほぉ、それで?」

土方は相づちを打ち顎に手を当て神山を見据える。後ろでは藤堂が神山と一緒に居た隊士に「先行ってて」とその場を離れさせた。

「デートのお誘いっスよ!!ついにこの神山やりましたっ!!沖田隊長はペンギンの被り物でおめかしなんかしちゃっていつも格好いい隊長が可愛くみえたのであります!!」

頬を赤らめぐるぐる眼鏡に手を掛ける。
藤堂が無言で手に持っていた竹刀を土方に差し出し、同じく無言で土方はそれを受け取った。

「気付いたら何故か自分は屯所の外で倒れていたんスけどね!!幸せすぎて気絶しちゃったんスかね?!あれ?そういやぁ沖田隊長は」

土方が竹刀を構え一気に神山に向かって薙ぎ払う。折れた竹刀と共に神山の体が吹っ飛び中庭の池に落ちた。

「…一番隊にはアイツが居た事を忘れていた」
「副長には珍しい失策ですね」

土方は半分になった竹刀を放り投げ盛大に溜め息を吐いた。

「まだ姿を隠して行ったようだから良いが…ったく!あのアホは」
「あ、トシ、藤堂」

青筋を立て顔をしかめる土方と心配そうな顔の藤堂に近藤が声をかけてきた。

「近藤さん、総悟が」
「そうそう!聞いてくれ!!その総悟がな!今朝なぜかペンギンの格好して神山と居たから何してるんだって声をかけたんだよ。そしたら」

近藤が懐から一枚の写真を取り出し嬉しそうに二人に見せた。

「じゃーん!!!お妙さんの写真くれたんだぞォ!!」
「じゃーん、じゃねーよ!!!近藤さん!!!」

土方が近藤に向かって怒鳴る。近藤は吃驚して「おぉ?!」と言い後ずさった。

「ト、トシ?!あ、マヨライターなら届いていたぞ?!」
「あ、そう?…じゃねーよ!!アンタ!総悟だぞ!!そ、う、ご!!今どんな状況だったか思い出してくれ!!」
「………あぁーー!!!!」
「自分の首も掛かってるんだぞ!!ボケるのも大概にしてくれ!!!」


真選組のナンバー2がナンバー1に叱りつける様を見ながら藤堂は顔をひきつらせ苦笑いをした。


「終はどこ行ったのかねぇ…」

まだ片手しか使えないが剣術の稽古に付き合ってもらおうと非番の斉藤を探しているのだが見当たらない。

溜め息をつき土方からの八つ当たりから逃れる為、そうっとその場を離れた。






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