友情

35

右の忍刀で人造人間に向かって袈裟掛けを繰り出した。相手がそれ避けると左の鉄の棒で突きを食らわす。少し後方へ下がっただけで再び襲ってきた。


さすが天人産の材質で造られた人造人間。丈夫さが半端ではない。

山崎は懐から紙を取り出した。先程見つけた資料の内容をメモしたものだ。
ここが弱点だ、とかそんな事は記されていなかったがそれに近しい事が書いてあった筈。


原田の方は段々息が荒くなり防戦一方となっていた。人造人間の方は疲労とは無縁なので動きは鈍る事なく依然激しい攻撃をしかけてくる。

鉄の棒は曲がりに曲がってもう使えない。原田は人造人間の方に鉄の棒を投げると同時に懐へ飛び込む。
蹴りを食らわし最初に山崎が刺した脇腹へもう一度忍刀を刺した。中の回路に何とか異常を来す事はできないだろうかと力任せに捻ってみる。たが、効果はなかったようで人造人間は両手を握り原田の背中に向かって振り下ろした。

床に叩きつけられ顎を切る。その背中に向かって爪を閃かせ手刀を突いてくるが横に転がりそれを避けた。

原田はすぐに起き上がる。眩暈がし、ぐらりと体がふらつき片膝をついた。

「…埒があかねぇな」

脇腹に忍刀が刺さったままの人造人間を見据えながら呟く。顎を押さえる手から血が滴り落ちた。


「原田!アイツの顎と首の間辺り赤く光ってない?!」

山崎が紙を手に叫ぶ。

「顎…?」

目を凝らして見てみると確かに一部小さくほのかではあるが赤く光っている。

「あぁ!何となくだが」
「そこ!そこが人間で言う心臓の部分!!」

弱点が分かり喜ばしい事なのだが、そこかよ、というのが正直な感想だ。普通に胸なら狙いやすかったのに。

ふと原田はあの永倉について行った夜の事を思い出した。
武器を奪おうと腕で首を巻いた時、尋常ではない力で放り投げられた。自分の急所から敵を遠ざける為の防衛反応だったのか。


一方、人造人間の方は考えている時間を与えてくれる筈もなく、原田の方を向き腕を振り上げた。

「山崎!俺がコイツ押さえておくから苦無で狙え!!」

普通に攻撃しても防がれるだけだ。原田は人造人間の拳を避けながら叫んだ。

「分かった!!」

山崎は紙を懐にしまい苦無を取り出す。

原田は後方へ飛び人造人間との距離を取った。そこから助走を付けて思い切り体当たりを食らわす。仰向けに倒れた体の上に乗り、苦無を防がないよう手を押さえつけようとした――が、

「!!」

原田の手をすり抜け腹を目掛けて手刀を刺す。ずぶりと爪が食い込んだ。

「原田っ!」

それを見た山崎が目を見開き悲鳴に似た声で叫ぶ。

原田は一瞬顔をしかめるが怯むことなく自分の腹に爪を食い込ませたまま血が滴るその手を掴んだ。

「俺の腹筋舐めんなよコラァァ!!」

人造人間はさらに違う手で首を狙ってきた。咄嗟にもう片方の手で掴む。

「山崎っ!!」

足の痛みに堪え苦無を構える。身動きの取れない人造人間の顎下に狙いを定めた。


――これで、


深呼吸をし、鼓動のように赤く光る小さい部分を目掛けて投げつけた。


苦無が人造人間の顎下に刺さる。


原田の首のすぐ近くまで来ていた人造人間の手に力が無くなった。それを感じ取った原田は掴んでいた手を放り投げるように離し、腹に刺さっていた手も引き抜く。


「…」
「や、やった…?」

山崎が呟いた。原田が無言で人造人間の顔を見る。赤く光っていた目は消え黒い空洞となっていた。

原田は肩で息をしつつ人造人間の体から降りるとドカッと座り込む。
心配そうに原田を見る山崎の方に向かって無言で親指を立てた。


「はぁー…」


山崎が溜め息を吐き、力が抜けたように座り壁にもたれた。


原田は息を整えながら動かなくなった人造人間の方を見た。

まだ元凶が残っているが、とりあえず仲間の仇は討てたか。



「…またみんなと呑みに行きたかったなぁ…」

仲間達の事を思い出したか山崎が情けない声で呟いた。


仇を討っても戻る筈がない仲間達。


仇討ちというのは相変わらず達成感がないものだな、原田は天井を見上げながらそう思った。






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