友情

34

何事にも経験だ。討ち入りだって密偵だってそう。いくら腕が良くても場数を踏まなければ要領が掴めない。


「山崎!石に取り憑かれていたあの時の動きはどこへ行った?!」
「去年の暮れに捨ててきたわァ!!」

逃げまどって中々反撃できない山崎に原田が怒鳴る。だが全て完璧に避けているところが実に山崎らしい。

「足狙え!足!」
「ど、どう…」

人造人間が繰り出す電光のような突きを避けながら困惑する。山崎も真選組隊士、強さもそこそこな筈なのだが今回は相手が悪い。

人造人間の背後から原田が刀身を振り下ろした。山崎に向いていた体を右に捻り受け止める。その足を山崎が払いバランスを崩させた。逆手で持った忍刀を脇腹へ刺すとそこからバチバチと稲妻が走る。忍刀を抜き放すと後方へ飛んだ。
原田がその脇腹へ力任せに刀身を打ち込む。しかし人造人間はまるで何事もなかったように床に手をつくと唸りをたてて下から刀を振り上げてきた。

「!」

咄嗟にそれを凌ごうとするが刀身が折れ飛ぶ。
やばい、と思った時には真横に刀が迫っていた。

「原田!」

山崎が叫び駆け寄る。原田は身を引いて避けようとするものの間に合わず頭を斬られ顔の半分が血糊で覆われる。
山崎はさらに追い打ちをかけようとする人造人間の手と柄の間に苦無を投げ刀を落とさせると、体当たりをし原田から遠ざけた。体が少し後方へ下がり刀が床を滑りながら離れる。

「大丈夫?!」
「やっぱ人間相手とは勝手が違うぜ…クソッ!」

袖で血を拭いながら舌打ちをした。再び二人の目前まで来た人造人間は拳を振り上げ、山崎の腹に拳を突き立てる。

「っんぐ…!」

山崎の体が吹っ飛びフラスコや空瓶が並んでいる棚へガラスが割れる激しい音と共に突っ込んだ。

「山崎ィ!!」

原田が叫んだ。山崎はすぐ起き上がり腹を押さえ咳込んでいる。周りはガラスの破片が散らばり体中は切り傷だらけだ。

「てん…めぇ!!」

目の前の化け物を睨み据える。刀は折れて使い物にはならない。半分となった刀身を人造人間に目掛けて放り投げると、側にあった長い鉄の棒を手に取り構えた。

「うおおぉぉぉ!!!!」

雄叫びを上げ鉄の棒を振り上げる。相手が避けるとくるりと身を翻して下から斜め上に突きを繰り出した。胸に当たり体が飛ぶ。床に滑り落ちたところを蹴り上げ宙を浮いた背中を思い切り叩き付けた。紙束が置いてある机に突っ込み派手な音と共に紙が舞う。

「山崎!」

原田が山崎に駆け寄る。山崎は切り傷だらけの手を前に出し「大丈夫」と呟くが苦しそうな顔には汗を大量にかいていた。
後ろでは再び人造人間が立ち上がる。

「…チッ!何か弱点とかないのかよ」

原田は焦燥に駆られ舌打ちをする。山崎が痛みに顔を歪めながら壊れた棚に手を掛け立ち上がった。

「ロボットは…磁力に弱いって聞くけど…人造人間だから心臓のような部分があるんじゃ……あ」

原田に肩を借りガラスの破片の山から出ていた山崎が何か思い出したかのように目を大きく開く。

「何?」
「メモ…何か書いてあったような…」

人造人間が床を蹴り再び二人に襲いかかる。爪を刃物のように伸ばし振り上げてきた。

「!」

原田はドンと山崎を壁に向かって押し鉄の棒でそれを凌いだ。後ろで山崎は「わ」と声を出し座る。

「お前はそこに居ろ!それじゃあまともに動けないだろ」

山崎はガラスの破片で左の脛辺りを深く切っており血が床に点々と落ちていた。

「…」
「忍刀貸してくれ」

原田は前を見据えたまま後ろに手を出す。山崎はその手に忍刀を渡すと左にある鉄の棒を縦に、右の忍刀は横に構えた。


「待ってろ。俺がかたを付けてやるよ」
「原田…」

山崎は目の前の大柄な男を見上げる。顔半分は血で赤黒くなっていた。






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