友情

33

やっと会えた、仲間の命を一瞬にして奪った奴。絶対逃がしてたまるものか。


後ろから叫ぶ永倉の声も原田の耳には入らず、息を切らしながらも全力で桃色を追いかけた。

女の後に続いて塀を乗り越える。そこがセンサーの死角だったのか警報も鳴らず幕府の敷地内潜入。女は奇抜なデザインの施設に入っていったがさすがにそこまでは追いかけられなかった。


丸一日かけて施設内に潜入、やっとここまで来た。



原田は目の前の老人を睨み据える。

後ろに向けていた刀の剣尖を老人に向けた。

「仲間の仇、討たせてもらう」
「仲間?…沖田の事か?」
「アイツが死ぬわけねぇだろ。その女に銃殺された俺んとこの部下達だ」

老人は「フム…」と顎に手をやる。

「あぁ…もしや真選組隊士の事か。あれはあっけなかったのぉ。仮にも幕府の特別武装部隊と名乗っておるからもう少し楽しませてくれると思っていたのに…あの程度で江戸の平和を守っているなど片腹痛い」


その言葉を聞いた途端、原田の目が見開き地を蹴る。刀を振り上げ老人に斬りかかるが間に神楽の姿をした女が入り、傘でそれを受け止め競り合いとなった。

「アイツ等とは今まで数え切れねぇ程の修羅場を一緒にくぐり抜けた……アイツ等にはなぁ…モテねぇ俺とは違って家族がいた、恋人がいた!それにも関わらず夜遅くまで呑みに連れ回して遊んでも文句一つ言わねぇバカばっかだった!俺には勿体ねぇ良い奴ばっかだった!!何で…何でてめぇの遊びまで付き合わなきゃならなかったんだァァァ!!!」

原田はそう叫ぶと一気に傘を押し返し刀を下から斬り上げる。傘が両断され上部がゴトンと床に落ちた。老人はそれを一瞥する。

「…ほぉ。…お主あの夜に一度此奴と同等に戦いよった者か。そうかそうか…」

先程棚から取り出した薬品を持った。

「お主等が日々斬っておる浪士達にも家族や恋人がいるだろう。儂も一ヶ月前に一人娘を殺られ仇討ちのつもりで人造人間をつくった。最終的には沖田を殺すようにな。儂とお主何が違うというのか」

「義の精神が違う」

老人の背後から原田とは違う声がした。老人がハッと振り返る。

「山崎…?」

原田も黒髪の青年を見て驚き思わず名を呟いた。

「浪士達にも立派な志を持っている。もちろん大切な人が待っている浪士も中にはいると思う。俺らも真選組を守る為にそれを承知で斬ってるんだ。でも浪士達と俺ら、唯一同じ物を持っているとすれば己が決めた信念を貫き通す義の精神……なぁ、アンタにはあるのか?私欲のみに走っているアンタに」

山崎は忍刀を逆手で持ち胸の前で構える。

老人は「フン」と鼻で笑うと手に持っていた薬品を神楽の姿をした人造人間にかける。

「義やら志やら…固いのぉ」

薬品をかけられた人造人間の桃色の髪が伸び肌の色が黒くなる。目は赤く光り背が倍近く伸びた。

「老人の夢ぐらい叶えさせておくれ」

そう言うと老人は背を向ける。

「儂はもう一方の良い使い道を考えておこうかの」
「待てコラァ!!」

去ろうとする老人に向かって原田は怒鳴ると同時に斬りかかったが、人造人間の作り出した刀によって弾かれそのまま刀を縦にし原田の頭上を狙った。

「チッ!!」

後ろへ飛びそれを避ける。人造人間の後ろにいた老人の姿は消えていた。再び舌打ちをする原田の元に山崎が駆け寄ってくる。

「原田!」
「山崎」

二人は顔を見合わせる。山崎の方は怒ったように顔をしかめ原田に向かって指を差した。

「何でここにいるの?!」
「何でここにいるんだ?」

二人ほぼ同時に声を出した。

「何でって俺は…うゎ!!」

山崎が言い掛けたその時、二人の間を刀が風を切る音と共に振り落とされる。ドコォ!と音を立てて床がヘコんだ。

「話は後だ」

原田は刀を構える。

「仲間を殺したコイツをぶっ潰す」
「…分かった」

非戦闘員の監察にとって遠慮したい事態だが、惨たらしい姿となった友人達を思い出し忍刀を持つ手に力が入る。

幕府が管轄する施設内でこんな事をして副長に何て言われるかな、なんていう不安もあるが。






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