友情

32

――これか?


潜入生活三日目、山崎はやっとそれらしき資料を見つける。


この夢幻という研究所は地下三階まであり下に行くほど気味の悪いえいりあんなんだか宇宙人なんだか分からないホルマリン漬けが並んでいた。

罠がないかを見つつ慎重に進んで行き、ある机の前まで行く。山積みになっている紙束の中に‘人造人間’と書かれてある紙を見つけた。それがこの資料。

ペラリと一枚めくってみる。
人型の絵があり周りに文字が書かれていた。

(…サッパリ分からない)

でも人造人間を作っているという証拠にはなるかな、と思いその資料の内容をメモに書き留める。


(…おや?)

資料をめくっているとある部分に目が止まった。

12月の日付とよく見知った名がある。


(沖田さんだ…!)

後、‘夜兎の娘’という文字もあった。神楽の事だろう。それぞれの毛髪のデータやら戦闘能力の分析結果やら、この二人について色んな事が書かれてあった。


(…何したんだ、この二人)

自然と山崎の顔がひきつる。

何でこうなったかは知らないが、これを元に偽物の神楽が作られたのだろう。沖田のデータもあるという事は沖田の偽物もあるというのだろうか。


「さて…お前には次何をしてもらおうかの…」


――!!

老人の声が聞こえ、山崎は咄嗟に身を隠した。


(あれは…)

一ヶ月前に一瞬だけ見た事がある老人が入ってきた。確か藤堂を助けに行った時に見た老人だ。山崎は咄嗟に超小型ビデオカメラを持ち録音ボタンを押す。


その老人の後ろから桃色頭のチャイナ服を着た少女が入ってきた。


(チャイナさん…!)

…ではないな。偽物か。

「中々の戦闘能力だが、まだまだ本物には届いてないようじゃな。人間相手と同等にやれるようじゃ戦闘部族とは言わんじゃろ」

老人は何やらブツブツと呟きながら棚にある様々な薬品を出している。

「親の七光バカの次は…そうじゃな…病院の奴等を皆殺しにするか?大パニックになるじゃろ」

フォフォフォと老人は薬品を取り出しながら笑う。


(決定的な証拠ゲットー)

山崎は心の中で音符をまき散らしカメラの停止ボタンを押した。

これでやっと帰れるかな、カメラを懐になおし足を忍ばせその場を後にしようとした。

「あの坊やは意外にあっけなかったの。仲間相手では剣の腕も鈍ったか」

何の事だろうか、山崎は足を止める。しかし次の言葉を聞き止まった事を心底後悔した。


「真選組一番隊隊長がこうもあっさり殺られるとはのぉ」


――え?


一瞬頭の中が真っ白になった。次に心拍が段々速くなる。

まさか…いや、そんな筈はない。何かの間違いだ。


落ち着け山崎退。今ここで動揺してはダメだ。まず無事に帰ってからだ。それから事を確かめるのだ。


胸に手を当て深呼吸をする。


「あれが偽物という事に気付かんとはの。濡れ衣を着せられ仲間に殺される気持ちはどんなものだったのか。陽紀を殺した罰じゃ」

人が落ち着こうとしているのにいらん事をブツブツほざきやがってあのクソジジィ。

落ち着きを取り戻すどころか焦燥感が満ち溢れてくる。
ダメだ。とりあえず別のことを考えるのだ山崎退。


山崎は再び胸に手を当て目を閉じる。


(カバディカバディカバディカバディカバディカバディ)



――ガシャーン!!!


「!!」

何かが割れる激しい音を聞き弾かれたように山崎の目が開く。


(な、何?)

とりあえず自分ではない。老人の方を見ると側にある訳の分からない物体が入っているカプセルのような物が壊れ、中から液体が流れ出していた。コンクリートの床がヘコみ亀裂が入っている。

老人が目を見開いて事を招いた人物を凝視していた。


「…え?」

山崎までもがその人物を見て驚愕する。


こんな所に居る筈はない。場所すら知らない筈だ。というか立場上居てはいけない。


その大柄な人物は刀の峰を肩に乗せ老人を睨みつけている。


「…んな節穴な奴等じゃねーよ!俺の仲間共はよっ!!」


そう怒鳴るのは自分と一番仲が良い、



真選組十番隊隊長、原田右之助。






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