友情

29

そこへまた一人黒い布を被った男が現れた。

「ごめん。遅くなった。とりあえずここから離したよ」
「終ー…。おせぇよ…」

ぐったりしていた永倉が現れた男を見上げた。

「ごめん。中々見つからなくて」

黒い布を取ると申し訳なさそうな顔をした斉藤が現れる。

「終」
「沖田もごめんね。もうちょっと早く終わらせてあげたかったのに」
「斉藤が攘夷浪士に扮して幕府の者を襲ったってわけ」

沖田に武田が説明する。あの時の刀の金属音はそれか、沖田は納得した。

「いやぁ、でも久々に楽しめたぜィ。なぁ、永倉」

沖田は隣で座っている永倉を見てニヤリと笑う。

「まぁ…そうだけど」
「やっぱ一位と二位の差はでかいねィ」
「…ムッ…」

永倉は沖田の言葉を聞き不機嫌そうに口をへの字に曲げる。
沖田はそんな永倉を見て再び笑うと「そういえば」と話をきり出した。

「何で俺じゃなく偽物って分かったんでィ」
「斬り口だよ」
「斬り口?」

沖田は斉藤の言葉に首を傾げる。

「バラバラ死体の斬り口が汚かったらしいよ。沖田が斬ったとしたらこんな事にはならない。局長と副長はすぐ気付いたみたいだよ」
「へぇ…」
「でもそんな事、幕府の人達に言っても聞かないからね」

「それでこうなったわけ」と斉藤はそう続けた。


「大体、あのチャイナ服の子も副長分かってたんだぜ。何で一人で悪者役を勤めたがるんだ」
「え?」

永倉が沖田を見ながら言う。その言動に藤堂が目を丸くさせた。

「それもう言っちゃって良いのか?」
「…マズいか?」

永倉が瞬きをしながら藤堂を見上げる。

「おっと、言い掛けてストップは無しだぜィ」

沖田に突っ込まれた永倉は「うっ」と声を出し顔をしかめる。


しかしいつまでも路地裏で話し込むわけにはいかない。もう局長と副長が帰って来ているかもしれない、と沖田、永倉、藤堂はパトカーで屯所へ、斉藤と永倉と夜勤を交代した武田はそのまま見回りへと去って行った。





「よう死人」
「死ね土方」

副長室へ入るなり沖田と土方は顔を合わすと同時に声を出す。

「聞きやしたぜィ。アンタ最初っからチャイナの事疑ってたんじゃなかったのかィ」

沖田は土方の前にドカッと胡座をかきふてくされた顔で目の前の男を見る。屯所へ帰る途中の車内で永倉から朝の土方との話を聞いた。

「いや、半々だな。だから俺も一度万事屋に行ったんだ」
「どんな手を打ったんです?」
「山崎だ」

そういえば見ていないような、沖田は地味な男の姿を思い出した。

「またあの研究所に行ってもらった」
「…仕事が早いですねィ」
「お前が気付くのが遅かっただけだ。まぁ、おかげでまた潜入するとか無茶をしなかっただけ良いが」
「じゃあ今から」
「アホ。もし見つかったらどうするんだ。お前が死んだと知れば偽物も出してこないだろ」
「…だって、俺結局何もしてねーし」
「…」

土方は不機嫌そうに言う亜麻色頭にポンと手を置く。

「相手が相手だ。尻尾出すまで裏方にまかせておけば良いんだよ。今は大人しくしておけ」
「えー」

土方は亜麻色頭から手を離すと煙草を一本取り出す。

「原田も捜索しなきゃならねぇのに…人手がほしいのは山々なんだが…」
「あー…まだ帰って来てねぇんですかィ」

「あぁ」と土方は顔をしかめながら100円ライターで煙草に火を付ける。


「しかし、あの天人の父親が殺されたって聞いた時はさすがに血の気が引いたぜ。とうとうやりやがったかってな」
「やるとしてもそんな防犯カメラと記念撮影するヘマはしやせんよ」
「やるなやるな。近藤さんなんてどんなに取り乱していたか」
「そぉぉーーごォォォ!!!!」

スパン!と勢いよく襖が開けられる。滝涙を流した近藤が姿を現した。

「あ、近藤さん」
「そぉごォォ!!俺は信じてたぞォォォ!!!!」
「うわぁ!」

ガバァと大柄な体に飛びつかれてたまらず沖田は畳に倒れる。

「ちょっ…近藤さん!」
「総悟があんな事やる筈ないもんなっ?!分かってたぞぉ!父さんは分かってたぞぉぉ!!」

近藤は倒れた沖田を抱き起こし亜麻色頭を胸に押しつけながら叫ぶ。

「近藤さん!苦しいし痛いし臭いでさァ!」
「く、く、臭いィィィ??!!え?加齢臭?!もしかして加齢臭??!!」

沖田は慌てふためきながら叫ぶ近藤を顔を赤らめながら見上げる。

そんな二人を見て土方は鼻で笑いフーと紫煙を吐いた。