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本庁から幕府の人間が真選組の隊服を来た男に殺されたという連絡が入り近藤と土方が本庁に行ってしばらくした後、永倉、斉藤、武田、藤堂が部屋に集まって話をしていた。
「人間でも天人でもないでしょ」
「人間でも天人でもないわよ」
永倉から話を聞いた斉藤と武田は同時に言う。
「だろ?絶対今回の沖田もそうだって」
「本庁の奴等がそんな事耳に入れてくれるかねぇ…」
永倉は胡座をかき手に顎を置く。その隣で苦々しい顔の藤堂がいた。
「沖田はまだ帰って来てないんだね」
「早く帰って来いよー…顔見ねぇと安心できねぇじゃん」
困ったように言う斉藤と心配そうに溜め息を吐く藤堂。
「生き物じゃなかったら…何かしら。ロボットとか人造人間とか…」
「…あの研究所思い出すなぁ…」
武田の言葉に嫌な顔をした藤堂は左腕のギブスをさする。
「…それだ」
「?」
斉藤の細い目が大きく開く。そんな斉藤を不思議そうに永倉は見た。
「前の事件で右之から聞いたんだよ。沖田と右之、後、その神楽っていう子で例の研究所の所長を尾行したって。途中から沖田とその女の子だけで行ったらしいんだけど…その際に何かあったんじゃない?」
そういえばそんな事言っていたような、腕を組んで永倉は思い出そうとする。藤堂は隣で天井を見上げゆらゆらと体を揺らした。
「…確かにあの夢幻っていう研究所の地下には気持ち悪い人型の何かがいっぱいあったなぁ…」
「…それ…沖田気付いてないのか?」
張本人じゃん、永倉は眉を上げ溜め息を吐く。
「みたいねー。肝心なところで天然さんなんだから」
頬に手を当て首を横に振る武田を永倉はちらりと見、ポケットから携帯電話を取り出した。
「とりあえずそのバカに連絡すっか」
沖田に電話をしようとしたその時、その手元の携帯電話から着信音が鳴る。
液晶画面を見た永倉が「え」と驚き声を出した。
「…副長からだ」
「えー…嫌な予感しかしねぇな」
藤堂が顔をしかめる。
「はいよ」
『総悟を粛清しろ、という命令がきた』
「あぁー…きましたか」
電話に出るなりそれかよ、永倉が困ったようにこちらを見てくる三人を見渡す。
『しかも幕府の者が総悟を見逃さないか粛清現場を監視するという念の入れようだ』
「それはそれは…」
『俺に考えがある』
「はい?」
土方の考えとは、まず粛清すると言って永倉が沖田と戦う。その現場を幕府の人間に見せておく。その間に隠れている幕府の人間を見つけ二人の戦いから目を離す。その透きに幕府の目から逃げる。後に幕府にはその戦いで沖田を粛清した、と嘘をついておく。
「とりあえずしばらくの間、沖田は死んでてね」
武田はしゃがむと沖田の前でニコリと笑う。
「ね、じゃねーよ。相変わらず慎重なのか無茶なのか分からねぇ人でさァ。証拠の首とかどうすんの?」
「バズーカで吹っ飛んじゃいましたって言っておくわ。全てが終わったら生き返ってね」
そう苦笑しながら武田は答えた。沖田は「マジかよ」と溜め息を吐き武田の話に出てきたある事を思い出す。
「あの時の事すっかり忘れてたさァ。そうか…あいつか…」
一ヶ月前、神楽と一緒に潜入した幕府の敷地内で出会った陽紀の父を思い出す。確かにそこで人造人間とか自分らのデータとか何とか言っていた。
何で今まで思い浮かばなかったんだろうか、沖田は頭を抱える。
取り残した膿が今になって広がるとは。
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