友情

26

――とは言ったものの、信じてくれるだろうか。

考えようでは動機も神楽の殺害命令が嫌で命令した天人を殺害した、って事にすれば完璧だ。


ぼんやり光る街灯が見えてくる。

公園だ。当たり前だが誰もいない。
通り過ぎようとした、その刹那――




「!!」

ゾクリとした殺気が沖田を突き刺す。

目を見開き抜刀した瞬間、懐に何かが飛び込んできた。咄嗟に刀身を縦に構える。
ガキンという金属音が夜の公園に響き双方はそれぞれ後ろへ飛んだ。

どこかで感じた事がある太刀筋。月の光で相手の剣尖が光る。


「……なっ?!」

街灯で照らされた者を見た途端、沖田は驚愕した。

刀を片手青眼で構えた背の低い青年。


「…よ」


真選組二番隊隊長永倉新七。




「永倉…」
「俺が何で来たか分かるだろ?」

隊服を着た永倉は静かに問う。

「…」

まさかこんなに早く来るとは、沖田は心の中で舌打ちをした。


――しかもよりによってこいつかよ。


「まさか分からない筈はないよな?お前も数日前した事だ」
「粛清ですかィ?」
「せいかーい」

沖田はハァと白い吐息を出す。

「友田は潔かったねィ…俺はそうはいかないんでさァ」
「へぇ…何で?」

永倉は沖田を睨み据えたまま首を傾げた。

「もちろん、濡れ衣だから」
「残念。証拠はあがってる。上からも命令来てんだ。局長の為にも頼むよ」
「…明日宿題取りに行かなきゃならねぇし遠慮しとく」

沖田は平青眼に構えた。

「お前が本当に殺る気なら俺も相手しなきゃならねぇが」
「俺、命令には忠実なの」
「…しゃーねぇな。大丈夫、凹助と入れ替わりの入院ぐらいで済ましまさァ。おチビちゃん」
「…やりますか」

永倉が地を蹴り横へ回る。


永倉は相手の刃筋を咄嗟に見分けてすり抜けて斬ってくる。しかもその小柄な体を存分に活かし懐や死角に飛び込んでくるのだ。
背が伸びない方が良いのでは、と誰もが思うのだがそれを本人に言うと怒られる。


永倉が剣尖を閃かせ右下から喉に目掛けて突きを繰り出そうと肘を引いた。沖田はそれを防ぐ為、胸の上辺りまで刀を持って行った瞬間、突然永倉は肘を引いたまま身を低くして脇腹を突いてきた。

「!」


(フェイント…!)


沖田は刀を上段に構えたまま横へ飛んで避けた。衣服が破れる。


(やってくれるねぇ、このチビ)


沖田は鼻で笑う。一応自分の次に強いと言われる男だ、地面を滑りながら着地すると地を蹴って右片手に持つ刀で下段から胴に向かって斬りかかる。それが防がれると同時に左手で永倉の刀を持つ腕をすり抜け服を掴んだ。そのまま思い切り地面へ叩き付ける。

「っ!」

土煙を上げ地面を滑る永倉に沖田は刀を縦にして追い打ちを掛ける、が横に転がり地面を刺すだけとなった。

永倉はすぐ立ち上がり間合いを空ける。


「…」


あれ?俺、殺すつもりでいた?そう沖田は自問した。

もちろん殺すつもりなんてない。だが、剣の腕が立つ永倉が本気で殺気立っている為か、つい自分も乗せられている感じがする。


「…なぁ、本当に俺じゃないんだけどねィ」

沖田は再び刀を構え呟いた。


このままじゃお前を殺してしまう。


「…」

永倉は無言で沖田を見据える。後ろ足を引き再び片手青眼に構えた。






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