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結局、神楽の後を追いかけて行った原田は夜が明けても屯所には帰って来なかった。
「…バカ」
永倉から話を聞いた土方は頭を抱えボソッと呟く。
「しかし…あれ本当に神楽っていう子ですか?…何か人間味がなかったっていうか…いや、天人なんですけど…生きているっていう感じがしなかったっていうか」
腕を組み首を傾げながら永倉は言う。
「やけに体が冷たかったんですよねー」
「…」
土方は永倉の話を聞き考え込むように顎に手を当てた。
「他に何かおかしかった事あったかィ?」
土方に変わって沖田が永倉に問う。
「急所が全然効かなかった」
「それは下手くそだからじゃね?」
「…ほぅ?」
沖田が間を空けずあっけらかんと放った言葉に永倉は青筋を立てた。
土方は「止めんか」と亜麻色頭を小突く。
「分かった。ご苦労だったな」
そう言いフーと紫煙を吐いた。永倉が立ち上がると同時に襖が開く。近藤が眉を下げ困ったような顔で入ってきた。
「んー…マズい事になった」
後ろ手で襖を閉める。沖田が「ん?」と不思議そうな顔で入ってきた男を見た。
「どうしたんですかィ?」
「いやぁ…なぁ…」
沖田を見ながら言いにくそうにボリボリと頭を掻く。
「?」
「何だよ、近藤さん」
土方が顔をしかめ近藤を見る。
「さっき本庁から電話があったんだが…」
その言葉を聞いただけで嫌な予感がする、沖田も顔をしかめた。
「殺された天人の父親が犯人を殺せと、首を持ってこいと言ってきた」
「!」
沖田が弾かれたように目を見開く。
「そりゃあ、命令か?近藤さん」
土方が苦々しい顔で問う。近藤は困惑した顔で「…そういう事になるな」と、溜め息を吐いた。
「総悟、行って来い」
「はぁっ?!」
沖田が土方を睨み声を張り上げた。
「アンタ、本気で言ってんのか?!」
「トシ、それはないだろ」
近藤も眉を曇らせ土方を見る。
「行って来い、と言っただけだ。殺すか見逃すかはまかせる…が、近藤さんの首がかかっているという事は忘れるな」
「…つまり殺せと言っているのも同然ですよねィ?」
神楽と敬愛する近藤の首とを天秤にかけられると沖田は近藤の方を取る。
「どうだろうな」
その言葉を聞いた沖田は無言で立ち上がり土方を一瞥して睨み部屋を出て行った。
「犯人はあの子じゃないと思いますが」
立ったまま黙って聞いていた永倉が口を開く。
「俺もそう思う」
「え?」
「じゃあなぜ?」
土方の言葉に永倉と近藤は驚き目を丸くする。
「…心当たりがひとつある。それを奴に教えたらまた勝手に行動するだろ」
黒髪を掻きハァと紫煙と一緒に溜め息を吐く。
「殺しはしないだろ。一番チャイナ娘を信じているのはアイツだからな」
「その心当たりに何か手は打ってあるのか?」
怪訝な顔で近藤は土方に聞く。
「あぁ。原田が後を追ったのは予想外だったが…」
「…何とか明日まで引き延ばしてもらうか」
近藤も腕を組み溜め息を吐いた。
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