友情

21

永倉は重心を低くし刀の柄に手を掛け神楽を見据える。
確かにクリスマスパーティーで見たことがある顔だ。途中からずっと中庭で沖田と喧嘩していた子。


「うぉりゃあぁ!!!」

原田が雄叫びをあげ地を蹴る。刀の峰を背中まで持って行き一気に振り下ろす。
神楽はガキンと金属音を鳴らし刀を受け止めると同時に回し蹴りを繰り出した。それを後ろに引きながら仰け反って避け片手で刀を持ち喉に向かって突きを食らわす。
またしても神楽は身を開いてそれを回避した。

「おい、右之!殺る気か?」

容赦ない原田の攻撃を見て永倉が慌てて駆け寄ってきた。

「…何かおかしい」
「?」

原田が残心の構えで神楽を見据えたまま放つ言葉に永倉は怪訝な顔をする。

「あの嬢ちゃんは沖田と同等にやり合う奴だぜ?戦闘部族だっていうし。そんな手応えないんだが」

原田も真選組の十番隊隊長とあって剣の腕は良い。だが、さすがに戦闘部族の夜兎には適う筈がない。
しかし今の攻防では神楽の攻撃を避けることができたし避けられてはいたが反撃だってできた。

やはり違うのか?

「!」

神楽が二人に向かって銃口を向ける。

傘から放たれる銃弾を避け永倉は刀の柄に手を掛けた。

「とりあえず捕まえるぞ」

右で抜き打ちに神楽へ一刀する。傘で防がれたのと同時に横へずれ傘を持っている手を左で掴むと一気に地面へ引いた。バランスを崩した神楽に足払いを掛け地面にうつ伏せにしようとしたが、神楽は咄嗟に掴まれていない手で地面に手を付き体を支える。傘の銃を地面に向かって乱射、小石や土煙が舞い二人を覆った。

(目潰しか!)

永倉が怯んだ隙に掴まれた手を振り払いそのまま胴に向かって薙ぎ払う。

「…っと!」

永倉はそれを身を低くして避ける。そこへ原田が左腕で神楽の背後から首を巻き、右で傘を持つ手を抑えようとした――が、神楽はその右腕を両手で掴み一気に180センチの体を持ち上げる。

「っ?!」

背負い投げをくらい地面に投げ出された原田に向かって銃を乱射するが咄嗟に前に立った永倉が刀で青光りを出しながら弾を防ぐ。何発かは防ぎきれず永倉の体を掠った。

原田はすぐ立ち上がり永倉と共に神楽との間合いを空ける。

「すまん。大丈夫か?」
「掠り傷だ。やっぱり簡単にはいかないなぁ」
「素直に応援呼ぶか」
「だな」

原田と永倉が溜め息をついたその時、パトカーのサイレンが聞こえ隊長服を来た青年が駆け寄ってきた。

「原田さん!永倉さん!」
「二木」

永倉と同じく夜勤の九番隊隊長二木が神楽を見る。

「銃声が聞こえたのでまさかと思って来たのですが」
「師と同じ目に遭いたくなかったら油断するなよ」

永倉が前を見据えたまま言う。師とは藤堂の事だ。

「俺が仕掛ける」

原田が刀を振り上げ神楽の頭上を目掛けて落とす。神楽は傘でそれを凌ぐと突きを繰りだそうと肘を引く。そこへ二木が足払いを掛け、納刀した永倉が神楽の首の後ろにある延髄を手刀で打った。

普通ならそこで気絶をする筈なのだが、神楽はすぐ体勢を整え振り向き様に傘を薙ぎ払う。

「あれ?」

永倉は後方へ飛んで避け目を丸くする。

「外したか?」
「永倉君…」
「永倉さん…」

原田と二木が永倉を見る。

「も、もう一回!」

決まった筈なんだが、永倉は首を傾げ再び身構える。

神楽が三人に向かって銃を乱射する。それぞれ分かれて避けると二木が抜刀し一太刀浴びせる。神楽が後方へ飛び二木の刀身が空を斬ったところを原田が傘を目掛けて刀を下から思い切り振り上げた。
懐が空いたところに永倉が入り水月へ拳を突き立てる。

…が、神楽の動きは止まらず原田によって上げられた傘を持ち直すと下にいる永倉に向かって突き降ろす。

「うぉ?!」

寸前で身を開いて避ける。傘が地面に突き刺さり小石が飛び散り亀裂が入った。

後方へ飛び再び間合いを空ける。

「…次は頸動脈ですか?先生」

顔をしかめた永倉が隣に来た原田に問う。

「天人は体の仕組みが違うのか?」

さすがにおかしいと思った原田も怪訝な顔をした。


神楽が再び傘を構えたその刹那、目が赤く光る。

「!」

何か来るのかと三人は身構える。だが、神楽は傘を降ろし背を向けると屋根の上へ飛び乗った。

「逃げる気か?!」

原田は神楽を見上げ叫ぶ。

「…」

神楽は原田を一瞥すると屋根から屋根へ飛びながら去って行った。

「待てよ!コラァ!!」
「右之!!」

原田は神楽を追って走る。永倉と二木も後を追おうとした時、目の前を複数の男達に塞がれた。

「我らの同志達をやったのはお前等かっ!!」
「だぁぁ!!何で今更お前等が来るの??!!」

神楽が現れる前に来た攘夷浪士の仲間だろう。永倉は青筋を浮かべ抜刀した。






ほんの数分で浪士達を片付け原田が去った後を見る。二木が肩で息をしながら刀を納めた。

「行っちゃいましたね…」
「…っ!…あんの単細胞バカッ!!」

永倉は刀を地面に叩きつけ怒鳴った。






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