20
「副長らしくないなぁ」
永倉は頭の後ろで手を組みながら星空を見上げる。
「あれだけ証拠上がってたらすぐ捕まえても問題ないと思うんだけど」
「世話になってっから躊躇してんじゃね?」
ハゲ頭に毛糸の帽子を被った原田が白い息を吐きながら言う。
「あの鬼の副長がねぇ…」
夜勤の永倉は原田と共に夜の江戸の町を見回っている。原田は夜勤ではないが証拠があるのにも関わらず一向に進まない犯人逮捕に苛立ち、その気持ちを抑える為について行った。
「…伊東の時もえらい世話になったしな。気持ちも分からんでもないが、他に何か手掛かりがあるっつーのかよ…」
苦々しい顔で吐き捨てるように言うと足下の小石を蹴る。
そんな原田を見、永倉は困ったような顔で溜め息を吐いた。
原田が蹴った小石が転がり誰かの足下に当たって止まる。
「!」
突如目の前を腰に刀を携えた浪士らしき男が5、6人現れ二人は足を止めた。
「真選組二番隊隊長永倉新七だな?」
浪士達の中から一人の男が一歩前に出、口を開く。
「ん?そうだけど?」
「友田という男を知っているだろう?」
間者を放った攘夷浪士か、永倉は「あー…」と声を出す。
「賊にやられたと聞いたが、差し詰めお前が殺したのだろう」
俺じゃねぇけど…ま、いっか、永倉は自分の頬をポリポリと掻く。
「同志の仇、討たせてもらう」
目の前の浪士達が抜刀した。
事情の知らない隊員達を先に行かせていて良かった、と思いながら永倉は刀の柄に手を掛ける。
「いっちょ体暖め」
「俺がやる。虫の居所が悪ぃんだ」
永倉の前に原田が抜刀して立った。
「ちょっと?右之助君?」
小柄な体の前に180センチのがたいの良い体が立つ。浪士達が見えなくなり永倉の顔に青筋が浮かんだ。
「真選組なら誰でも良い。かかれ!」
リーダーらしき人物が叫ぶと一斉に浪士達が白刃を閃かせ襲ってきた。
まずは前方の敵の剣尖を摺り払い肩から左袈裟に斬る。向きを変え斬った勢いそのままの刀身を一刀し目の前にある敵の両手首を斬り落とした。
噴水のように噴き出す血と共に刀を持ったままの両手が体から離れ地面に放り出される。
(容赦ないなー)
目の前で鬼の如く刀を振り回す友人を見て永倉は思った。
いつもならどこかの亜麻色とは違い殺すより捕縛の方を優先する男なのだが、虫の居所が悪いというのは本当らしい。
「こっちだ!」
原田とは反対の方向、永倉の後ろで叫び声が聞こえた。
新手が来たようだ。こちらも同じく5、6人、ようやく自分の出番が来たか、と永倉は一度柄から離した手を再び掛ける。
――その刹那、激しい銃声と共に新たに来た浪士達が一瞬にして地に伏した。
「!」
永倉の目が見開き、原田と残り一人となったリーダーらしき浪士の動きが止まる。
「まさか…」
永倉が銃声の発生源と思われる屋根の上を見据えたまま声を出す。
その屋根の上でキラリと何かが月の光に照らされた。
「右之っ!!避けろォ!!!」
永倉が叫び横に飛ぶ。原田も同時に永倉と反対側へ飛んだ。
「っぐあぁ!!」
突然の事で逃げ遅れた浪士が銃声と血飛沫と共に絶命する。
血溜まりの死体の側を傘を持った小さな体が降り立った。
「…これは…マジだったのかよ」
寒空の中にも関わらず脂汗を滲ませた原田は思わず呟く。
沖田と共に幕府の敷地内に潜入し、帰りはその傘についた銃に世話になった。
その後車内で沖田と二人仲良く寝入りどこかほのぼのとした感じだったあの情景を思い出させる。
傘を片手に無言で立つ。桃色の髪を頭の両端でまとめチャイナ服を来た少女、
確か名は――神楽。
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