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「隊長!!こちらの防衛は完璧でありますネ!!」
「よぉーし!一歩も中に入れるなよ。敵は二人だ!油断するな!!」
「ラジャー!!」
「マヨはぁー外!!ドSはぁー外!!」
銀時が玄関の外に向かって塩をまく。その後ろで神楽が机を盾にして中に入れるまいと構えていた。
「…オイ…万事屋…」
塩をまかれている土方は青筋を立てながら眉をピクピクと動かす。
「どうせろくな用事じゃねーだろ!!中には絶対入れさせねぇ!!」
銀時は「帰れ帰れ」と言いペッペッと唾を吐く。
「こっ…んのやろ…」
「旦那ぁー今回はちぃーとばかし真面目な話なんでさァ」
「!」
銀時の後ろから沖田の声がした。ハッと二人が振り返るとソファーに座っている沖田の姿が目に入る。
「た、た、隊長ォォォ!!!!いつの間にやら栗虫が入り込んでいるネ!!」
「な、な、なぁにぃぃぃ!!この鉄壁の要塞が突破されたと言うのかァァ!!!」
銀髪と桃色頭に稲妻が走る。
「もう止めんかァァァ!!!!」
新八の声が万事屋に響きわたった。
「いや、ほんと、すみません」
新八は頭を下げながら沖田と土方に茶を出す。
「ろくな用事ではないってことは当たってまさァ…」
溜め息混じりで沖田は呟いた。
「ほら新八、見てみろ。数十分後には入れなきゃ良かったって後悔すんぞ」
銀時はソファの上で胡座をかき横目で新八を見る。
「またまた…聞いてみないと分からないじゃないですか」
「んじゃ、遠慮なく話させてもらう」
新八の言葉に間を入れず土方が例の事件のことを話し始めた。
「……ほれみろ。最初のコントすら後悔させるような話じゃねーか」
土方から話を聞いた銀時が青ざめる新八を見て溜め息を吐く。
「バカみたいな話ネ!そんな事やる訳ないアル!!」
目を大きく見開いた神楽は机をバンッと勢いよく叩き怒鳴った。土方はそんな神楽を見据えフーと紫煙を吐く。
「昨日の3時頃何していた?」
「ここに居たネ。サドに会った後、姉御の所に行って真っ直ぐ帰ってきたアル」
神楽も土方の目を睨み据えながら言う。不機嫌そうな沖田が土方の方をちらりと見た。
「…右上」
「お前は黙っとけ」
ボソッと呟いた沖田に土方はギロリと睨む。
「それ、来た意味ねーし」
「あぁ…こういう事だったのね。沖田君」
銀時は昨日の事を思い出したか、ハァと溜め息を吐いた。
「多串君、その防犯ビデオに映っていたのが誰かは知らねぇがウチの神楽がそんな無駄な殺しすると思う?」
「そうだな。普段はそう見えない」
土方は神楽を一瞥し言った。それを聞いた銀時は人差し指を目の前の男に差して目を大きく開く。
「だろ?分かってんじゃん。だったら」
「戦闘部族ってのは血を好むんだろ?」
「!」
神楽が「え」と声を出した。銀時の目が鋭くなり土方を睨み据える。
「自分が気付かないところで本能的に動いたんじゃねーのか?」
「ちょっと…土方さん。神楽ちゃんはね、ずっと夜兎の血と戦ってるんですよ。何も知らないくせに何勝手な事を言っているんですか」
それまでずっと黙っていた新八が口を開く。必死に怒りを押さえているかのように若干声が震えながらも強い口調で土方にかみついた。
「…確かに、俺はお前等程その女の事は知らねぇ。…だがな、お前等も真選組の奴等のこと何も知らねぇだろ。いつもバカしかやってねぇ奴等でも一つの隊の結束力は半端じゃねぇんだよ」
「…」
真選組の十番隊隊員が全滅したというニュースを思い出した。確かにその事を思うと胸が締め付けられる思いだが、だからと言ってその犯人を身内にされちゃあたまったものじゃない。
新八は一瞬戸惑うがすぐに土方に言い返す。
「そ、それは分かりますが」
「分かっちゃいねぇよ。どんな情報でも全力で当たって犯人を見つけ出す。幕府の官僚とかどうでも良いんだよ。俺らの居場所を護る為に仲間だって殺る時がある。どんなに気が合ったって殺らなきゃならねぇ。そこまでして護ってる奴の為にも意味の分からねぇ殺人者に潰されたくはねぇ」
弾かれたように沖田が目を丸くして土方を見る。
「…ただ俺は証拠を元に真選組副長として来た。今は私情なんざ挟むつもりはねぇよ。そこのバカは知らねぇが」
そう言うと土方は煙草を灰皿にすり潰す。銀時はフゥと息を吐くと銀髪をボリボリと掻く。
「…で、その真選組副長さんは神楽を捕まえに来たの?」
「いや…とりあえず話を聞きに来ただけだ。また来る」
土方は立ち上がり沖田に「帰るぞ」と言い背を向け玄関へ去って行った。
「旦那」
沖田も立ち上がりポケットから飴を出す。
「胸糞悪ぃ話聞かせちまってすいやせん。お詫びにこれを」
その飴をポンと銀時に投げた。
「…ほんとによ。もう来んなよ」
その飴を受け取りシッシッと手を振る。
銀時から顔をそらし神楽の方を見る。半ば呆然としていた彼女はハッと沖田に気づき目が合った。
「…」
沖田は懐から小さな箱を出すと思い切り桃色に投げつける。
「!」
「俺、お菓子じゃねーし」
ボソッと呟き俯くと足早に去って行った。
神楽は沖田から受け取った箱を見る。
銀時がポンと桃色頭の上に手を乗せた。
「心配いらねーよ。大丈夫」
そう言いガシガシと頭を撫でる。
「銀ちゃん」
「多串君もツンデレだから。それに…」
銀時が神楽の手元にある小さな箱を指差す。
「心強い味方がいるじゃねーか」
その小さな箱、酢昆布の箱にはマジックで‘次はぜってぇ負けねぇ’と書かれてあった。
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