18
局長室に近藤と土方、夜勤以外の隊長が集まっている。
その中で沖田と原田が睨み合っていた。側では困ったように二人を見ている四番隊隊長の杉原がいる。
「総悟の気持ちも分かるが…これは一度チャイナさんに屯所へ来てもらって」
「必要ない。ただ似てるだけでさァ」
沖田は強い口調で近藤の言葉を切る。原田は青筋を立てながら短く溜め息をついた。
「なぁ…沖田。さっきからないの一点張りだぜ?」
「ないったらない」
「…だからそれを言い張る証拠がどこにあんのかって聞いてんだよっ!!」
殴りかかりそうな勢いで怒鳴る原田をひと睨みすると沖田はフンと顔を背ける。
「…こんのっ…!!」
「原田君、座ろう、ね?」
横を向く沖田に向かって拳を振り上げ立ち上がろうとする原田の両肩を慌てて杉原が後ろから押さえる。
「事情聞くぐらい構わねぇだろっ!!…俺だって一応面識のある奴だしよ!犯人だなんて思いたくねぇっ!!」
そう声を張り上げるとドカッと胡座をかき座り直す。
土方が本庁から帰り防犯カメラの映像を分析させた結果、やはり神楽である事が分かった。
もう一つ、沖田が神楽に傘を貸してもらった時に撃った鉛弾を鑑識にかけてもらった結果、一件目、隊士達を襲った件、そして本庁から持ち帰った弾と全く同じ物だった。
証拠としては完璧。どう考えても沖田には分が悪すぎる。
土方はハァと紫煙を吐き沖田を見る。
「総悟。原田の言うとおりだ。いつまでもガキみたいに意地張ってんじゃねぇよ」
沖田はむっとして口を尖らし無言で土方を睨んだ。
「大体上から連れて来いと命じられている。背くとどうなるかぐらい空の頭でも分かるだろ」
自分だってこれはただの我が儘だって事ぐらい自覚している。しかし…どうも受け入れられない。
それに加え‘上から…’という大嫌いな言葉を聞きピクリと肩を揺らす。
「友田の時は何の躊躇もなく殺れたのになぜ女を連れてくるだけの任務はやれない?」
沖田の瞳孔がカッと開き片膝を立て側にあった刀の鯉口を切る。
――が、その柄にかけた手を大きな手が掴んだ。
「総悟」
近藤が沖田を見据え首を横に振る。
「…っ…!」
沖田は近藤の真剣で真っ直ぐな目を見、チッと舌打ちをし刀を納め座り直した。
「副長」
井上が口を開く。
「沖田と共にその万事屋という所へ行ってみては如何ですかな?連れて来るのではなくあくまで話を聞きに」
「源さん、俺はぁ?!」
まだ気が立っているのか声を尖らせて原田は井上に問う。
「一時間後に葬儀が始まるぞ。隊長は出席せんといかんだろ」
井上の言葉に「あぁそうか」と呟き首の後ろを掻く。
「…そうだな。総悟、行くぞ」
土方は立ち上がり「へい」と短く返事をした沖田を連れて部屋を出た。
原田も「準備がある」と言い部屋を出る。
「…そういえば…山崎の姿が見えないね」
七番隊隊長の丘がキョロキョロと部屋を見渡す。いつもなら副長の隣にいるのに。
「喧嘩仲裁役の山崎君がどんなに大変かよく分かったよ」
杉原は力が抜けたようにハァと息を吐いた。その肩を丘が慰めるかのようにポンポンと叩く。
「殺された幕府の天人。ある官僚の箱入りのひとり息子ってえらく可愛がられたらしいわよ。早く何とかしないと親父さん何て言うかしら」
幕府になぜか友人が多い武田は困ったように頬に手をやった。
「うーん…」
近藤は腕を組み頭を捻らす。
神楽は自分の愛する妙の妹のような存在の子である。
「何かの間違いだったら良いんだが…」
天井を見上げそう呟いた。
戻る