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ひとーつ、ふたーつ、みーっつ…
無意味に目の前にあるごま煎餅のごまの数をかぞえてみる。
「神楽ちゃんどうしたの?何だか今日変だね」
じゅーさん、じゅー……、
新八の声で神楽の思考が止まる。神楽はギロリと眼鏡をかけた少年を見た。
「新八のせいでごまが行方不明ネ」
「え?!僕の発言そんな威力あったあァァ??!!ごま煎餅を普通の醤油煎餅にする能力持ってたァァ??!!」
精一杯自分の特技を出す眼鏡の少年から目をそらし溜め息を吐くと再びごま煎餅を見つめた。
食欲には誰にも負けない自信があるのにも関わらず目の前の煎餅に手を付ける気になれないのはあの亜麻色の男のせいだ。
何だあの目は。いつものギラギラした好戦的な目ではなく、何か人の心を読むような…それでいてどこか悲しそうな目。
――調子狂う。
パタン、と神楽は机の上に伏した。
「…神楽ちゃん、熱でもあるんじゃない?」
新八は神楽の額に手を当てる。
「…ないや」
「あら?神楽ちゃん風邪?」
襖を開け妙が三人分のアイスを持ってきた。机の上にアイスとスプーンを並べると心配そうに神楽の肩に手を置く。
「違うアル。何か私までお菓子になったアル」
「…やっぱり熱あるよね?幻覚みてるよね?」
机の上に顎を置き呟く神楽を新八は顔をひきつらせながら見た。
「あ、もしかして神楽ちゃん恋でもしたのかしら?」
「ハァァ??!!」
神楽は妙の問いにガバッと勢いよく上体を起こす。妙は吃驚したように肩に置いていた手を離した。
「違うアル!!あんな奴にそんなもんするぐらいならごまにするネ!!」
「何だか分からないけどその人ごま以下なんだね」
新八の冷静な突っ込みを聞き流した神楽は目の前のアイスを引き寄せ蓋を開けると勢いよく食べ始めた。
当たり前だ。あんな奴に恋愛感情なんぞ欠片も抱いた事はない。
「…あれ?いつもならここでどこかの局長さんが出てくるパターンなんだけど…」
新八がキョロキョロと周りを見渡す。だが神出鬼没のストーカーが出てくる気配はない。
「まぁ…やっとゴリラ星に帰ってくれたのかしら」
胸の前で手を合わせ嬉しそうに妙は言う。そんな自分の姉を横目で見、新八は苦笑しながらアイスを食べ始めた。
「昨日真選組の隊士が十人ぐらい銃殺されたらしいですよ。その事件で忙しいんじゃないですか?」
神楽はスプーンを加えたまま「ふーん」と呟く。
「あのゴリラもちゃんと仕事してるんだナ」
「あ、そういえば…昨日沖田さんが万事屋の前で一時間ぐらい待ってたってお登勢さんが言ってたけど…銀さんに用だったのかな?また妙な依頼を……ブハァ!!」
突如新八は横から右ストレートパンチを受けスプーンとアイスが飛ぶ。
「???」
眼鏡がずれたままの新八は右頬を押さえながら横にいる神楽を見る。頭の上をはてなマークで散らしていた。
パンチを繰り出した張本人は何事もなかったかのように空になったアイスとスプーンを置き「ごちそうさまアル」と言って部屋を出て行った。新八と妙は目を丸くしパタンと閉められた襖を見つめる。
「もしかしてごま以下の人って…」
沖田さんか。この前は勝ったと言って大喜びしていたのに今日はどうしたのだろう。喧嘩したのか…と言ってもいつも喧嘩してるし。
「…」
喧嘩友達って複雑なんだね、新八はそう思うと「ハァ」と溜め息を吐いた。
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